こんにちは。FE 28-60mm F4-5.6(SEL2860)を使い始めて半年が経とうとしている10max(@10max)です。
ソニーα7Cのキットレンズとして発売されたこのレンズ、元々中途半端な印象があって購入を躊躇していたのですが、赴任先のベトナムは奇跡の国だったため思いがけず日本の半額以下(≒α7Cとセットで買ってないのにセット同等価格で)で買えたためモノは試しと入手しました。
元々、α7Cに付けっ放しにしている万能大口径TAMRON 28-200mm F2.8-5.6 (A071)の代わりにならない事は勿論分かっていましたが、一方で一番悩ましかったのは、進化の著しいスマホカメラとの棲み分け。これだけスマホで何でも撮れてしまうと、果たしてSEL2860の出番なんてあるんだろうか?
その辺り含め、最近何となくSEL2860の活用場面や存在意義が見えてきたので、作例と共に所感をまとめておきたいと思います。
掌に収まる佇まいはとにかく最高なのだが
言うまでもなくこのレンズの最大の魅力は、フルサイズ機対応標準ズームの常識を突き破る小型軽量さにあります。
以前下記記事でも触れた通り、α7Cの「高性能コンパクトフルサイズ」という新機軸を最大限にアピールするために生まれただけあって、α7Cに装着した時の佇まいは実に美しい。
OLYMPUS E-M1MarkII, OLYMPUS DIGITAL CAMERA (23mm, f/3.4, 1/60 sec, ISO1250)
購入動機の7割はこの掌に収まるミニマルで端正なビジュアルにあったと言っても過言ではありません。
美しさと操作性の取り引き:レンズを繰り出す一瞬
この美しくミニマルな見た目のために払われた代償の1つに、操作性があります。所謂、レンズ繰り出し方式というやつで、撮影前にはこのような状態(↓)なのですが、
OLYMPUS E-M1MarkII, OLYMPUS DIGITAL CAMERA (31mm, f/3.7, 1/60 sec, ISO1000)
このままでは撮影できず、撮影時にはこのように(↓)ズームリングを回転させてレンズを繰り出す必要があります。
機動性を売りにしているレンズなのに、パッと鞄から取り出して撮影しよう、という時にこのワンアクションを強いられて「あっ!そうだった!」となるのには未だに少々戸惑うことがあります。
最近は割り切って、連続してシャッターチャンスが訪れるシーンでは繰り出しっぱなしにしてますけどね。まあ慣れてしまえば大した問題ではありません。ビジュアルの良さとの天秤であれば、ビジュアルの魅力の方が勝ります。
いずにしても、この美しいガジェットを鞄に忍ばせるという営みには非常にそそられるのですが、問題は撮影機会がどれほどあるのだろう、と言うことです。
言い換えれば、スマホとの差別化をそこまで感じられるのだろうか?という話。
いつ持ち出せばいいの?- スマホとしのぎを削るSEL2860
FE 28-60mm F4-5.6 (SEL2860)は、タムロン28-200mm F2.8-5.6 (A071)の様な万能大口径レンズと比較するような類のものではありません。これらの棲み分けは筆者の中では比較的明確です。
- タムロンA071等の大口径標準ズーム:失敗できない時/撮影目的の時
- ソニーSEL2860:日常スナップ/撮影するかも知れないししないかも知れない時
A071は、画角、近接性能、ボケなどのほぼ全ての領域でSEL2860を大きく凌駕するため、SEL2860では代わりになれませんが、一方、A071のような大口径レンズは(同種のレンズの中では相対的に小型軽量とはいえ)、それなりの存在感があるため、やはり持ち出すにはそれなりの気合が必要です。
つまり、A071とSEL2860の2本だけを考えれば、両方のレンズを所有する意味はあると言えます。
しかし問題はもう一つの対抗馬、スマホとSEL2860とではどうかというのが悩ましい。
スマホの撮影機能や画質の進化・向上については言うまでもありません。筆者はアップルのiPhone 12Proを使用していますが、多くの人が不満を感じない程度には美しい画を写します。
それどころか、最近はスマホにもSEL2860を凌駕する領域があり、もはやスマホがあればSEL2860の出番は無いんじゃないの?とさえ考えてしまいそうです。
まずはそんな風に感じる背景であるところの、SEL2860の物足りない点を並べてみます。後でちゃんとSEL2860の良い点も並べますから、ちょっと待ってて下さい(笑)
(比較的)ボケない。(比較的)印象も薄い。
これは対スマホというよりは、「フルサイズにしては」というお話ですが、やはり筆者のレギュラーレンズである大口径タムロンA071辺りと比較してしまうと、パッと何気なく撮影した時に出てくる画の印象というのはかなり薄い感じがします。言ってしまえば、これは被写界深度や圧縮効果などの効果の違いなんでしょうけどね。
下の写真はSEL2860によるストリートスナップ。嫌いではないのですが、どうしても記録写真的な感じが否めません。
SONY ILCE-7C, (50mm, f/5.6, 1/100 sec, ISO100)
一方下は似たような状況でのタムロンA071によるスナップ。200mm域ということもあり、ボケ量と圧縮効果のおかげで、より表情がある感じがしませんかね(自分で言うのもアレですが、光学的な事実としてボケと圧縮効果は上の写真より大きいです)。
凡庸な画角
上の「印象が薄い」の要因でもありますが、やはり28-60mmという焦点距離は扱いが難しい。無難過ぎて難しいのです。
広角側のパースも望遠側の圧縮効果も得にくいため、普通に撮っただけでは普通の記録写真にしかなりません。言い換えれば、印象的な写真にするためには明確な撮影意図を込める発想とテクニック、被写体が求められるレンズと言えます。
下の写真はSEL2860の広角端と望遠端で撮影した風景ですが、曇天だったこともありますが、何とも言えない感じになってしまいました。
特に最近のスマホのハイエンドモデルは望遠・超広角を含む複数レンズを備えているため、SEL2860よりも画角範囲も広く、またパースや圧縮効果をより得る事が出来ます。
下の写真は近所のバインミー屋の店内をSEL2860の広角端で撮影したもの。
SONY ILCE-7C, (28mm, f/5, 1/30 sec, ISO500)
そして下はiPhone 12Proの超広角レンズで撮影したもの。圧倒的に広い範囲を写す事ができます。
Apple iPhone 12 Pro, (1.54mm, f/2.4, 1/50 sec, ISO250)
筆者はもう一つのベトナム・旅ブログの方でローカルベトナム料理店などのレポート記事を多く作成していますが、こうなると、単なる記録撮影目的であってもSEL2860よりiPhoneの方に軍配が上がってしまいます。
割りと寄れない。
比較対象によるのですが、ざっくり言うと、あまり寄れません。寄れる万能レンズであるタムロンA071やスマホと比べると、このレンズ壊れてるんじゃないの?というくらい寄れません。
スペック的には、最短撮影距離30cm、最大撮影倍率0.15倍(A071はそれぞれ19cm/0.32倍)。
実はこれってフルサイズ用レンズとしてはそこまでダメなスペックじゃないんです。同じソニーの大口径レンズなんかはこれくらいです。逆にタムロンが寄れ過ぎるんです。
ただ、ここ比較しているのはスマホですから。スマホで食事を撮影した事が有る方は分かると思うのですが、くっついちゃうんじゃないかってくらい寄れますよね。
こちらはSEL2860で撮影した、4人くらいで取り分ける大皿の福建麺なのですが、最接近してもかなり遠目になってしまいます。また撮影姿勢的にも、最短撮影距離が50cmだと、ややのけぞる格好になります。
SONY ILCE-7C, (45mm, f/5.6, 1/50 sec, ISO1250)
下はマレーシアでお馴染みの青唐辛子の酢漬けを小皿に取ったものですが、SEL2860ではこの小皿をアップで撮りたくてもこれで精一杯。
SONY ILCE-7C, (42mm, f/5.6, 1/50 sec, ISO1000)
同じ様な小皿でもiPhoneならここまで寄れます(↓)。
Apple iPhone 12 Pro, (4.2mm, f/1.6, 1/100 sec, ISO125)
タムロンA071でも、この焼き鳥のような小さな食べ物もここまで大写しに出来ます(↓)。
SONY ILCE-7C, (60mm, f/4, 1/60 sec, ISO8000)
やはりこういう感覚に慣れてしまうと、SEL2860は寄れないな、と感じてしまいます。フルサイズ一眼としては割りと標準的であっても、こと比べる相手がスマホだと相当に歩が悪くなる格好です(むしろタムロン様すげぇ)。
SEL2860の作例 | だがしかし、スマホとは段違いの描写力
ここまでのところでは、筆者がSEL2860をディスりたいのかと思われるかも知れません。まあそりゃそうです。
しかしそういう話でもないのです。確かにスマホと比べてもSEL2860の守備範囲は狭く、ともすれば凡庸で使いづらいレンズかも知れませんが、しかし、ここでものすごく基本的な事に立ち返ります。「画質」という点ではやはり圧倒的にフルサイズが勝るのです。
画質ってなんでしょうね。ともかく作例を見比べて下さい。下の2枚はiPhone 12Proで撮影したものです。スマホなのによくここまで写るな、と技術の進化にまずは感心させられます。
Apple iPhone 12 Pro, (4.2mm, f/1.6, 1/25 sec, ISO800)
Apple iPhone 12 Pro, (4.2mm, f/1.6, 1/60 sec, ISO320)
SEL2860の描写力にはフルサイズ用レンズとしての誇りがある
しかし、上の写真を見た後で、下のα7C+SEL2860のタッグが吐き出す画を見ると、明らかに違いがお分かり頂けると思います(スマホだとちょっと分かりづらいかも知れませんが)。
撮影の腕はともかく、画質の差の比較だと思って見てやって下さい。以下全てα7C+SEL2860。
SONY ILCE-7C, (60mm, f/5.6, 1/125 sec, ISO100)
SONY ILCE-7C, (60mm, f/5.6, 1/100 sec, ISO100)
SONY ILCE-7C, (50mm, f/10, 1/50 sec, ISO400)
SONY ILCE-7C, (60mm, f/5.6, 1/200 sec, ISO100)
SONY ILCE-7C, (60mm, f/5.6, 1/60 sec, ISO800)
SONY ILCE-7C, (60mm, f/6.3, 1/60 sec, ISO125)
SONY ILCE-7C, (31mm, f/5, 1/40 sec, ISO400)
SONY ILCE-7C, (45mm, f/5.6, 1/80 sec, ISO100)
SONY ILCE-7C, (34mm, f/5.6, 1/40 sec, ISO640)
どうでしょう?
iPhoneの写真はどうしても撮像素子のピッチの狭さ故、ダイナミックレンジの余裕の無さや階調の粗さなどにより、全体的にカチッと硬い画質だと感じます。また素子ピッチの狭さによるノイズをソフトウエアで一生懸命処理している感も強いです。
それに対し、α7C+SEL2860の写真は、線が細く、明暗や階調の変化がなだらかで柔らかく、物体の質感の表現力がより豊かで、総じて非常にリアルで目に優しい感じがするのです。
スマホの画像処理によるボケはまだまだ途上
加えて、ボケ量もやはり隅には置けません。何しろF4-5.6と言っても、マイクロフォーサーズで言えばF2-2.8に相当するのだからしっかり意識すれば、スマホでは決して得られない相当なボケを得ることが出来ます(寄れないので大ボケは難しいけど)。
またボケの質についても、今のところ画像処理が作り出す擬似的なボケにはまだまだ限界があります。下の写真はiPhoneのポートレート機能により背景ボケを演出したものですが、コップのフチと背景との境界や取手の部分などが明らかに不自然です。この辺りは年々改善されていく可能性はありますが、作品として使用できるようになるまでには相当長い時間がかかるでしょう。
Apple iPhone 12 Pro, (6mm, f/2, 1/120 sec, ISO32)
SEL2860の画質も地味に秀逸
そして肝心のレンズの写りですが、レンズの小型軽量化を優先するがあまりフルサイズの画質を引き出せない、というような妥協は一切感じないところです。線のシャープさやボケ味、色味やコントラストなど、大口径レンズに引けを取らない描写力があり、フルサイズ機の実力を遺憾無く発揮してくれるレンズであると言えます。
実は上の方で、「A071は、画角、近接性能、ボケなどのほぼ全ての領域でSEL2860を大きく凌駕する」と書いた時に「画質」や「描写力」という単語を含めなかったのはこの事が頭にあったからです。
SEL2860はビジュアル重視のようでいて、フルサイズ用レンズとしての誇りは忘れていません。
SONY ILCE-7C, (60mm, f/5.6, 1/60 sec, ISO250)
SEL2860の価値、それはフルサイズ画質そのものだった
結局上で挙げた長所って、フルサイズデジイチのアドバンテージそのものなんですよね。その原点を思い出させてくれたのがSEL2860という、何の変哲もないキットレンズだったとも言えます。
もともとの疑問は何でしたっけ。
- このレンズの使い所は?
- もはやスマホがあればSEL2860の出番は無いんじゃないの?
そうそう、これらに対する回答としては、明確に
「SEL2860はスマホには出せない画が出せる」
と言えそうです。
正確に言うと、SEL2860は、大口径レンズを持ち出すのが躊躇されるようなケースで、スマホ+αの最小限の荷物でフルサイズセンサーのハイクオリティな描写力を引き出す事が出来る、ということになるかと思います。
例えばこんなケースにSEL2860は大活躍してくれるでしょう。
- 日々の通勤鞄の中に忍ばせて
- 家族や友人と一緒で大きなレンズを出すのが憚られる場合
- ちょっと気を使う飲食店などで
- 撮影が目的という程でもないちょっとした外出
と、ここである言葉を思い出しました。
「もっと自由なフルサイズへ。」
そう、α7C発売時のキャッチフレーズです。
上のようなケースでフルサイズ機を持ち出せるってのは、まさにこの言葉通りじゃないか・・・α7C+SEL2860の武器は、フルサイズ機の圧倒的に余裕のある高画質を持ち出す際のサイズや重量という制約を解き放つ小型軽量さですからね。
なあんだ、一周回ってソニーの思惑通りにハマっている事に気付かされたわけですね(笑)
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