※2020.9.22更新:製品名称に関する開発者コメント引用
ついにソニーのフルサイズミラーレス一眼、αシリーズに新たなデザインの製品ラインが加わりました。
α7の末尾にCompactを表す「C」の文字が加わった“α7C”。
APS-Cのα6xxxシリーズの様にペンタ部を廃したレンジファインダー風のデザインは、フルサイズのαでは初めての試みです。
このカメラ、SNSや情報サイトの掲示板では「カスタムボタンが減った」「メモリカードスロットがシングルに減った」と言った「現行機から削減された機能」面へのコメントが散見されます。しかし筆者的にはどうも単純な小型軽量化とのバーターで機能を削減した「エントリー機」というような枠では捉え切れないものを感じています。
というのも、これまでに他社から発売された軽量コンパクトを売りにしたフルサイズミラーレス機には筆者はあまり食指を動かされなかったのですが、今回はそうでも無いのです。
筆者は「軽量コンパクト×高画質・高機能」を身上とするマイクロフォーサーズのE-M1 Mark IIをメインに使っているため、これまでも「軽量コンパクトなフルサイズミラーレス機」が発表される度に期待しては落胆してきましたが、このα7Cは、もしかすると初めてその期待に答えてくれるのではないか、と感じています。
本記事ではその理由とα7Cが目指す「新しいコンセプト」を解きほぐすことで、筆者と同じ様にコンパクトさを優先してマイクロフォーサーズやAPS-Cを使っているものの、条件さえ許せばフルサイズミラーレス機に興味津々、という方のご参考になるのでは無いかと思っています。何しろそれは筆者自身のことですから(笑)
ではまず、何故これまで発売されたコンパクトフルサイズミラーレス機に関心が持てなかったのか、というお話からです。
※なお、本記事はEOS RPやZ5と、α7Cの優劣を語っているのではなく、そもそもの商品戦略やターゲットが異なる、と言うのが主旨です。
<9月24日実機レビュー記事追加>α7Cの先行展示会で早速実機を触ってきました。実機での感触や機能性を色々試したレビューについてはこちらをご覧下さい。
<2022年1月6日追記>その後α7Cを購入しました。α7 IVやα7 IIIと比較しつつα7Cを選んだ理由については下記記事をご参照下さい。
これまで「軽量コンパクトなフルサイズミラーレス機」に食指が動かなかった理由
理由①:「軽量コンパクト=エントリー向け」という位置づけだった
これまでに他社から発売されたエントリー向けのフルサイズミラーレス機といえば、キヤノンの「EOS RP」やニコンの「Z5」ですね。で、それらにあまり惹かれなかった理由は、それらは軽量コンパクトであると同時に、画質や機能性を削った「エントリー機」という位置づけであったためです。両機種とも上位機種から様々な性能や機能を削って価格を落としています。心臓部と言える撮像センサーがその最たるものです。
筆者は現在メイン機としてオリンパスのOM-D E-M1 Mark IIを、単焦点&オールドレンズ専用機としてソニーα7IIを使っているのですが、上記の本質的な部分での差別化が理由で、それらのエントリー機はメインのE-M1 Mark IIの置き換え候補としては少々力不足なのです。詳細は省きますが、上記の両機種およびα7IIは、フルサイズと言えども暗所画質やその他の機能性ではE-M1 Mark IIに劣るか、もしくはサイズアップに見合うほどの向上は見込めません(α7IIの場合は発売時期が大分遡るのが大きな理由)。α7IIとE-M1 MarkのII比較レビューは下記記事をご覧下さい。
理由②:システムトータルでのコンパクト化の道筋が見え辛かった
実はこれが最も根本的な問題と言えます。ボディについては既にE-M1 Mark IIなどのマイクロフォーサーズの上位機種と大きく変わらないところまで小型化されていますが、長い間ボトルネックになっているのはレンズなどを含めたシステムトータルでの重量・サイズです。
まずレンズについて言うと、EOS RPについては、キットレンズの1つに「RF24-105mm F4-7.1 IS STM」という標準ズームがありますが、画期的に軽量コンパクトとは言えず、どちらかというと撒き餌の単焦点「RF35mm F1.8 マクロ IS STM」を推しているフシがあります。
一方ニコンZ5については、同時に195gのコンパクトな広角〜標準ズーム「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」を発表しており、EOS RPよりベターは状況ですが、望遠側が50mmかつF値が6.3というのはやや物足りなく、さらに言えば(キヤノンも同様ですが)フラッシュについては新製品は発表していません。
では以上に2点について、一方のα7Cおよびαシステムについては何故期待が持てるのかを見ていきたいと思います。またその後、では一体どのような新しいバリューポジションを狙っているのか、という点についても考えてみたいと思います。
α7Cが単なる軽量コンパクトなエントリー機では無さそうな理由
理由としては主に3点あると思っています。
- モデル名に「7」を冠している
- 価格帯がα7ラインとあまり変わらない
- 本質的な画質や性能が上位機と変わらない、もしくは勝る
では一つずつ見ていきたいと思います。
モデル名に「7」を冠している
このモデルの噂が出回り始めた8月下旬当初、SNSや某情報サイトの掲示板などで「形状が異なるのに、7に拘る理由はなんでしょう?」というような疑問が呈されていました。尤もな疑問だと思いますが、筆者はそこにあるメッセージを感じてこうツイートしています。
デジカメinfoのコメントに
「形状が異なるのに、7に拘る理由はなんでしょう?」
と言うのがあるけど、恐らく
「性能・機能はα7ラインと同等」
という事を言いたいんだろうな。妥協はしてないよ、と。いいね。— 10max | 旅とキャンプと車と写真 (@10max) August 30, 2020
つまり、もしもこの新機種が廉価版、あるいはエントリー層を狙ったものなら、α9→α7→「α5」と言った序列を意識した モデル名にするでしょう。しかし敢えてそうしないところに、このモデルが単にエントリー層を狙った機能を削っただけの機種ではないというソニーのメッセージを見て取れるのでは無いかと考えています。
<2020.9.22追記>
カメラ雑誌各誌とも10月号でα7Cの特集を組んでいますが、デジタルカメラマガジンに下記の開発者コメントが掲載されていました。
噂ではα5かα6という名称になるという話もあったが、開発者によると「そういった名称では廉価版的な印象を持たれてしまう。我々が作りたかったのはあくまでも小型・軽量な7なのだ」というわけで、機能的にはα7IIIから削られた部分はほぼなく(以下略)
デジタルカメラマガジン2020年10月号
やはりこの名称には廉価版ではないというメーカー側のメッセージが込められているようですね。
価格帯がα7ラインとあまり変わらない
次に上で挙げた他社機種を含めて発売開始時の価格を比較してみましょう。下の価格は、各機種の現在の価格ではなく、価格.comに掲載されている各機種の「初値」です。
発売時実勢価格 | 上位機種の発売時実勢価格 | 差額 | |
ソニーα7C | 21万円前後 | 223,295円(α7III) | 約1万円 |
キヤノンEOS RP | 155,999円 | 230,849円(EOS R) | 74,850円 |
ニコンZ5 | 164,339円 | 245,220円(Z6) | 80,881円 |
この通り、EOS RPやZ5が上位機種よりも8万円前後価格を下げているのに対し、α7Cは現行のα7IIIとほぼ同じ価格でスタートする模様です(α7Cの価格は本記事公開時点で各媒体に掲載されている想定市場価格)。
このことから、α7Cが単に低価格によりエントリー層に対する敷居を下げたモデルでは無い事が窺えます。
なお、事前の噂では「α7IIIよりも高額になる」との情報もあってビクビクしていましたが、それは外れてホッとしています^^;
本質的な画質や性能が上位機に劣らない/むしろ勝る – α7IIIとのスペック比較
α7IIIと比べてどうか、という話になりますが、詳細のスペック比較は他の情報ソースに委ねるとして、本質的な画質や機能性に関わる部分に絞って比較してみたいと思います。差分が無い場合は「←」表示、差分がある場合は優れている方に緑のマーカーを引いています。
α7C | α7III | |
センサー | Exmor R CMOSセンサー
(裏面照射型) |
← |
有効画素数 | 約2420万画素 | ← |
AF方式 | ファストハイブリッドAF
(位相差/コントラスト) |
← |
測距点数 | 693点 (位相差)
425点 (コントラスト) |
← |
検出輝度範囲 | EV-4 – 20 | EV-3-20 |
瞳AF | [静止画] 人物 (左右瞳選択可) / 動物
[動画] 人物 (左右瞳選択可) |
[静止画] 人物 (左右瞳選択可) / 動物 |
AF被写体追従感度 (静止画) |
● | ← |
AF乗り移り感度 (動画) |
● | - |
ISO感度 | [静止画] ISO100-51200拡張: 下限50、上限204800 |
← |
ファインダー
サイズ |
1.0cm (0.39型)
約0.59倍 |
1.3cm(0.5型)
約0.78倍 |
ファインダー
ドット数 |
2,359,296 ドット | ← |
背面液晶モニター | 7.5cm (3.0型)
921,600 ドット |
← |
液晶モニター可動 | バリアングル | チルト |
液晶モニター
タッチパネル |
● | ● |
タッチシャッター
/タッチフォーカス |
● | - |
シャッター | 1/4000-30秒、バルブ(メカ)
1/8000-30秒、バルブ(電子) |
1/8000-30秒、バルブ(メカ・電子) |
ボディ内手振れ補正 | 5段 | ← |
連続撮影速度 | 最高約10コマ/秒 | ← |
連続撮影可能枚数 | JPEG Lサイズ
エクストラファイン: 215枚 |
同:約163枚 |
録画制限時間 | 無制限 | 29分 |
カスタムボタン | 7個 | 11個 |
カードスロット | 1個 | 2個 |
静止画撮影可能枚数 | ファインダー使用時: 約680枚
液晶モニター使用時: 約740枚 |
ファインダー使用時:約610枚
液晶モニター使用時:約710枚 |
防塵防滴配慮 | ● | ← |
アンチダスト機能 | ● | ← |
質量
(バッテリ、カード含) |
約509g | 650g |
寸法(mm) | 約124.0 x 71.1 x 59.7 | 約126.9 x 95.6 x 73.7 |
以上を総合すると、ペンタ部を廃してコンパクト化した事によるEVFのスペック、SDカードスロット数、カスタムボタン数以外の本質的な画質や機能性に関してはα7IIIに劣らないどころか、逆に上回っている部分も多い事が分かります。
撮像センサーや連写速度など最も分かりやすい部分で上位との差別化をして価格を下げているEOS RPやZ5とはこの点を見てもやはり戦略が違うようです。
同時発表のレンズとフラッシュにシステム全体のコンパクト化への本気を感じる
これ、上でも触れたとおり、非常に大事ですね。
この問題に関して、ソニーは今回α7Cと同時に二つの製品で今後の方向性を示唆しています。
「FE 28-60mm F4-5.6」を合わせればマイクロフォーサーズ機より軽く大きなボケ量を得られる
同時発表されたこの「FE 28-60mm F4-5.6(SEL2860)」、何と重量は167g。ニコンの「NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3」よりもさらに30gほど軽くなっています。またサイズもひと回り小さく、焦点距離も広角から中望遠までカバーしています。
このFE 28-60mm F4-5.6(SEL2860)」をα7Cに装着した際の合計重量は676g(本体のみ)。
これは、例えば筆者がメインで使っているマイクロフォーサーズのE-M1 Mark IIにキットレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROを合わせた880gよりも200g近く軽い事になります。
もっともオリンパスのPROレンズとの組合せでは不釣り合いなので、仮にオリンパスの撒き餌標準ズーム「M.ZUIKO DIGITAL 14-42mm F3.5-5.6 II R」と組合せた場合はどうかというと、合計611gになるので辛うじてマイクロフォーサーズの方が軽くなりますが、殆ど変わらないと言って良いでしょう。
またF値とボケ量に注目すると、フルサイズの28-60mm F4-5.6というのは、マイクロフォーサーズで同じ画角にした場合14−30mm F2.0-2.8に相当します。つまりボケ量だけで言えばオリンパスの2.8通しのPROレンズを上回る事になります。
小型軽量フラッシュHVL-F28RMも同時に発表
今回レンズだけでなく、小型軽量のフラッシュも同時に発表しているところに、システムトータルでの軽量コンパクト化を目指す意気込みを感じます。
このフラッシュのガイドナンバーは28という本格的な大光量で、よくフラッシュを内蔵しないカメラに付属するガイドナンバー10程度のものとは全く異なります。
それにも関わらず重量は219g。ニコンの同等のガイドナンバーのスピードライトは360gなので、かなりの軽量化が図られています。
また、ソニーは今回のプロモーションの中で繰り返し「新しいコンセプト」と言うメッセージを強く発しています。その事からも、システムとしてのコンパクト化を指向している可能性が窺えます。
α7Cはどんなバリューポジションを狙っているのか?
ここまでのところで、以下のような事が見えてきました。
- 画質や機能性には妥協していないようだ
- システム全体でのコンパクト化を目指しているようだ
これらの事から、ソニーが考えるα7Cを取り巻く製品ポジショニングは以下のように想像出来るのではないかと考えています。
従来フルサイズに無かった「(本当に)高性能なコンパクト」を狙っている
つまり、「エントリー向け」と銘打ち本質的なところで性能を削減して低価格戦略を打ち出すことをせず、比較的本格派のユーザーに対して軽量コンパクトな高性能カメラを訴求したい、というメーカー側のメッセージを読み取ることが出来るように思います。これはフルサイズミラーレスの中では新しい価値・ポジショニングと言えるのではないでしょうか。
でも、ちょっと待って下さい。これってどこかで聞いたことがあるような気がしませんか・・・?
そう、まさにマイクロフォーサーズ規格においてOM-Dが訴求してきたポジショニングそのものであるように思えるのです。フルサイズミラーレスというカテゴリーでは新しいポジショニングですが、マイクロフォーサーズユーザーにとっては馴染みのある概念、ということになりますね。
ということはつまり、現在OM-Dをメイン機として愛用している筆者のようなユーザー層こそ、ど真ん中のターゲットであると言う事にならないでしょうか・・・?えーと、はい、なってしまいますね(笑)
分かりやすい様にポジショニングマップにしてみました。
まとめ:「高性能コンパクト」に揺れるOM-Dユーザー
ということで、以上から分析するに筆者は現在非常に危険な状況に陥っていると言う事になります。
言い換えれば、「深く大きな沼のフチに立たされている」ということですね。立たされている?好んで立っている?まあいいや。
とは言え本当にα7Cを契機にフルサイズ沼にズブズブ入っていくかと言うとまだ悩ましいところではあります。ボディはともかくレンズの小型化に関しては、今回ピンポイントでコンパクトなレンズは出たものの、やはり光学的な制約があるため今後どこまでラインナップが増えていくかは未知数です。
実は筆者、先日密かにタムロンの大三元標準ズーム、28-75mm F/2.8 Di III RXD(A036)を購入してしまいました。で、これをサブ機であるα7IIに装着してみたんですね。
このA036、巷ではフルサイズ向けの大三元ズームにしては小型軽量であると言われている(確かに他の大三元よりはかなり軽量)のですが、正直なところマイクロフォーサーズに慣れている筆者にとってはそれでも大きく重いと感じており、これを常に旅先やキャンプ場で持ち歩くとどういう感じなのかはこれから検証しなければと思っています。
OLYMPUS E-M1MarkII, (31mm, f/3.7, 1/60 sec, ISO5000)なのでα7Cについても、実機を触って色々なレンズを付けてみてどうか、というのを検分しない事には何とも言えません。
しかし少なくとも非常に期待しているのは確かです。
例えば旅行などの際は上記の同時発表されたFE28-60mm F4-5.6を付け、そこそこ荷物を持てる場合にはタムロン28-75mm F/2.8 Di III RXDを付ける、と言った運用の仕方にしようと思っていますも十分考えられます。
あとは望遠や広角域でも同様のコンセプトのコンパクトなズームレンズが出てくれば文句は無いですね。
いやはや、楽しくなってきましたね〜(笑)
関連記事
9月18日から銀座のソニーショールームで行われているα7C先行展示会に早速訪れて色々試してみたのでこちらもご覧下さい。
その後α7Cを購入しました。α7 IVやα7 IIIと比較してα7Cを購入した理由についてはこちらを御覧下さい。
また、上記TAMRON 28-75mm F/2.8 Di III RXD (Model A036)のレビューはこちら
コメント
とても興味深く読みました。私もマクロフォーサーズ愛用者です。
フルサイズとマイクロフォーサーズを比べると、当然フルサイズの方がレンズへの制約が大きくなります(特に望遠)から、システム全体としてどれだけ軽量になるかは、まだもう少しわからないですね。
光学性能そこそこで、電子補正でバキバキというのも、なんとなく味気ない感じもしますし。
ねこぶえさん、コメントありがとうございます。
そうなんですよね、ボディの小型化はもうある程度限界まで来ているので、後はレンズ含めたシステム全体の小型化が進まないとM4/3からの完全移行はなかなか踏み切れないものがありますよね。
ただ今回のα7Cを取り巻くソニーの動きには少し期待できそうなものを感じています。
今後が楽しみです^^