フォルクスワーゲン & パサートオールトラック

VWアルテオン試乗 | セクシーさ・実用性・「R」の刺激、3つの裏切りで恋に落ちるまで

ディーラーから試乗キャンペーンの案内が届いた時、筆者の心は揺れに揺れた。

旬を考えればT-Roc辺りを選ぶべきだろう。

しかし筆者は0.5秒ほど迷った末にアルテオンの欄にチェックを入れて送信ボタンを押していた。

結局のところゴルフRに搭載される心臓部と設計を共にする280ps/350NmのTSIエンジンの誘惑が勝ったという訳だ。

その試乗インプレッションをお届けしたいのだが、今回は少しばかり苦労した。というのも、この車のキャラクターが筆者の脳内で像を結ぶのに時間が掛かり、その夜は中々寝付くことが出来なかった程なのだ。

まあ実際にはその夜家族で焼肉を食べに出かけて21時頃寝てしまい、深夜1時頃に目が覚めて眠れなくなったという側面も否定できないのだが。

<2020年9月:アルテオンの車名の由来追加>

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アルテオン=”ARTEON”の名が表すもの

まずはこの車名の由来から、アルテオンに込められたメッセージと位置づけを確認しておきたい。

端的に言えば、”ARTEON”=”ART”+”EON”の組み合わせによる造語だ。

まず、自ら「芸術」と宣言しているところに、この車のデザインへの拘りと自信が見て取れる。

次の”EON”とは何ぞや?となるのだが、この接尾語はフォルクスワーゲンの高級車ラインに伝統的に付与されてきたものなのだ。実は日本には導入されてこなかったのだが、フォルクスワーゲンにはかつて「フェートン(Phaeton)」「フィデオン(Phideon)」と言う名の高級セダンが存在した。これらはパサートのさらに上位に位置づけられ、フォルクスワーゲンが「プレミアムクラス」と呼んできたものだ。

「芸術的なフラッグシップ」としての役割を、アルテオンは担っている。

アルテオンApple iPhone XS, (6mm, f/2.4, 1/70 sec, ISO16)

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既成概念に対するアルテオンの「3つの裏切り」

VWの常識をかなぐり捨てたワガママボディ

実車で見るアルテオンは想像以上にエモーショナルだった。その肩から腰にかけてのラインに、筆者は即座に「エロいですね」という感想を口にしたほどだ。

エクステリアの特徴は後ほど詳しく述べたいが、そのボディラインは従来のフォルクスワーゲンのアイデンティティですらあった直線的なプレスラインから大きく逸脱するものだった。

ワーゲンよ、まさかここまでやるか・・・。これが一つ目の裏切りだ。

セクシーなだけじゃない居住性

しかしドライバーズシートに収まると、そこには見慣れた光景が広がっていた。それは何のことはない、愛車であるパサートシリーズと共通の内装だったからだ。

筆者はこの試乗の前から、アルテオンに対して次のような脳内イメージを持っていた。

「アルテオンとは、ベースモデルのパサートを今風のファストバックスタイルにモディファイしたものであり、パサートから居住性と実用性を奪い去ってスタイルを優先したモデルである」と。

しかし、後部座席に身を委ねた瞬間、そのイメージはもろくも打ち破られる。

なんと、178cmと比較的大柄である筆者が座っても、頭上に全く窮屈さを感じなかったのだ(もちろん膝前にはパサートを上回る広大な空間が広がっているのは言うまでもない)。

一体どうやって実現しているんだ?君はパサートセダンより40mmも全高を縮められ、街行く人を振り返らせるほどのエレガントなクーペラインをルーフに纏った車なんだぜ。御社のデザイナーは天才なのか?

もちろんラゲッジルームについては予め563Lというスペックが頭に入ってはいたが、実際に見てみるとその広大さに改めて驚かされる。

つまり「スタイル優先のために居住性・実用性を奪い取られたトレードオフの産物である」という脳内イメージがここで鮮やかに裏切られることになる。

サルーン?とんでもない。「R」だよ。

そうか。ここまで後部座席のゆとりと快適さを見せつけられたらこう理解するしかないね。

アルテオン、君はおそらく「パサートをベースにして後部座席でゲストがゆったりくつろぐ為に生み出されたサルーン」なんだね。じゃなきゃ、こんなデザイン・マジックを駆使してまで実用性と居住性を実現する必要がないじゃないか。ハイパワーなエンジン?静粛性を至上とするクラウンの心臓部だって相当なものだぜ。

しかし、幹線道路でアクセルを踏み込んだ瞬間、最後の裏切りが訪れる。

なんだこの猛々しいサウンドは。

僕は今スポーツカーに乗っているんだっけ?

 

心は掻き乱された。

この車は一体何なんだ?どんなターゲット層に何を訴求しようとしている車なんだ?

 

ワーゲンよ、一体何を考えているんだ?

 

・・・気付いたら筆者はこの車の事が気になって仕方なくなっていた。

ターゲットは他でもない、自分だった。

まんまと術中に陥ったという訳だ。

しかし、心の整理のためにはもう少し時間が欲しい。この日のインプレッションを詳しく辿ってみたいと思う。

アルテオンApple iPhone XS, (6mm, f/2.4, 1/800 sec, ISO16)

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エクステリア

フォルクスワーゲン離れしたエモーショナルなボディライン

アルテオンApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/2500 sec, ISO25)

優美なクーペフォルムだ。そんな陳腐な文句はこのページに辿り着いた諸兄に改めて言うまでもない。前述の通りベースとなるパサートよりも40mmほど全高が低くなっており、リアに向けた下降線は既にAピラーから始まっている(それは言いすぎかも知れない)。

フォルクスワーゲンのディーラーの中でも浮いて見えるほどのオーラを放っている。オーナーなので正直に言ってしまうと、ワーゲンの車にはエクステリアでオーラを放つタイプのモデルは多くはない。浮いて見えるのもむべなるかな、だ。

しかし、クーペ風のルーフラインを纏ったからと言って急にオーラを放つものだろうか?パサートセダンとそこまでの違いが生まれるものだろうか?

実は筆者がアルテオンの実車の前に立ってすぐに目に留まった部分がある。肩から腰にかけてのラインが「見慣れないもの」だったのだ。この写真をご覧頂きたい。

アルテオン エクステリア プレスライン フェンダーApple iPhone XS, (6mm, f/2.4, 1/120 sec, ISO16)

フロントフェンダーからリアフェンダーにかけての、まるで女性のボディのような膨らみ、くびれ、そしてまた膨らみの波状攻撃。こんな丸みを帯びたふくよかなワガママボディがかつてフォルクスワーゲンにあっただろうか。

パサートはもちろん、ゴルフにしてもポロにしてもティグアンにしても、手を触れれば切れそうなほどに直線的なプレスラインがフォルクスワーゲンのアイデンティティではなかったか。いや、厳密には切れそうなほどのプレスラインはそのままに、それを抑揚と丸みのある面の上に沿わせているのだ。何という芸当をやらかしてくれたのだ。

アルテオン エクステリア プレスラインApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/1000 sec, ISO25)

アルテオン エクステリア プレスラインApple iPhone XS, (6mm, f/2.4, 1/100 sec, ISO16)

リアビュー

リアビューも十分にセクシーだ。いやむしろ、個人的にはフロントマスクよりもこちらの方が好みだ。パサートセダンにはないリアスポイラーがスポーティさを際立たせると共に、このモデルから始まったデザイン手法である、センターに配置された「A R T E O N」の文字がエレガントだ。

アルテオン エクステリア リアApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/3500 sec, ISO25)

ところで余談だがこの文字配置はかつてプジョー308SWが一時期採用していた手法であり、MCで廃止している。ワーゲンでも揺り戻しはあるかも知れない。

SOURCE : AUTOEVOLUTION

フロントマスク

フロントビューはワイドで存在感がある。悪くない。

アルテオン エクステリア フロントマスクApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/2800 sec, ISO25)

でも何かが気になる・・・個人的にグリルが縦方向に広がり過ぎているのが、日本のミニバンのように「押し出し感」をやや過剰に感じさせるような気がするのだ。もっとも全体の造形美とオーラからすれば些細な点だし、個人的な好みなので気にならない人には気にならないだろう。

実はこの部分は本国で発表されているマイナーチェンジで変更が加えられ、グリルの上下の境目にラインが入りスッキリ見えるようになったようだ。(下の画像が誤っていたため差し替えました。ご指摘有難うございました。)

SOURCE : Clicccar

ヘッドライトも実に精悍だ。

アルテオン フロントマスク ヘッドライトApple iPhone XS, (6mm, f/2.4, 1/65 sec, ISO16)

この、立体的な2眼で静かに獲物を狙うような目つき、どことなくプジョー508のそれに通じるものを感じるのは筆者だけだろうか。

SOURCE : WebCG

いずれにしてもエクステリア上のハイライトは、優美なクーペ風のルーフラインもさることながら、これまでのアイデンティティだったサイドの直線的なラインから一歩も二歩も踏み出したグラマラスな造形にあると感じている。

アルテオン エクステリア

Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/1250 sec, ISO25)
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インテリア

現行は基本的にパサートと共通

現行アルテオンの内装は基本的にパサートと共通になっている。まずは前席とコックピット。

アルテオン インテリア 内装Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO25)

試乗車のエレガンスラインは内装がツートンカラーとなっており、それが差別化点になっている。しかし運転席に収まった時の景色はパサートと殆ど変わらない。画像を二枚並べて「どっちがアルテオン?」クイズを開催してもいいくらいだ。オーナーなら加飾パネルの柄辺りで見分ける事が出来るだろう。

アルテオン コックピットApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO64)

インパネやセンターコンソールも、多少の素材の違い以外に特に差分は見つからない(コンソール写ってないけど)。パサートの写真と並べて間違い探し大会をやってみるのも一興だ。

アルテオン 内装 センターコンソール インパネApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/105 sec, ISO100)

間違い探しを本気でしたい方はこちら↓

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ドアも内張りやドアトリムなどの基本的なデザインは変わらないが、こちらはサッシュレスとなっているのが大きな差異化点だ。これだけで「クーペに乗ってるぜ」感が一気に高まる。実用性はどうなのか、という点は別にして。

アルテオン ドア サッシュレスApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/490 sec, ISO25)

なお、この試乗車にはDYNAUDIOオーディオオプションが適用されており、スピーカー部にDYNAUDIOのロゴが見える。

後部座席:驚くべきは頭上空間

後部座席も、ツートンカラーになっている点以外は基本的にパサートとほぼ共通のシートが用いられている。ただし座面の外側サイドの張り出しはパサートの方が厚みがあるように思われる。

アルテオン 後部座席 インテリア 内装Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO64)

特筆すべきはその居住空間。パサートよりも45mm拡大されたMQB史上最大のホイールベースが確保されているのだから、膝前空間が広大なのは当然と言えば当然だが、「デザインのために実用性を犠牲にした」という能書きを省くことが出来るのは大きなメリットに違いない。

取り分け驚かされたのが頭上空間だ。先ほども述べた通り、身長178cmの比較的大柄な筆者が座っても全く窮屈さを感じさせない頭上空間には恐れ入った。しかもこの試乗車、頭上空間と言う点では不利なサンルーフ装着車なのだ。一体こんな離れ業をどうやってやってのけたのだろうか。

恐らくだが、パサートと比べると背もたれの傾斜を若干強くしているように感じた。そうして頭上空間を稼いでいるのかも知れない。

アルテオン サンルーフ 内装Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/500 sec, ISO25)

アルテオン 内装Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/60 sec, ISO200)

このテストのために前日に髪を切りワックスで立たせて試乗に臨んだのだが(大嘘)、それでも頭上に数cmの余裕がある。

アルテオン 頭上空間

Apple iPhone XS, (2.87mm, f/2.2, 1/90 sec, ISO64)

実はこの点に関してこれほど強い印象を持ったのには訳がある。以前、同じコンセプトを持つプジョー508ファストバックでは、気になる点の一つとして後部座席の窮屈感を挙げていたのだ。従って今回もこの後部座席の居住性についてはさほど期待できないだろうと考えていたのである。

両車は本国でのベース価格を取っても開きがあるので単純な比較は難しいが、スリーサイズがさほど違わない事を考えると空間の使い方はアルテオンの方が一枚上手と言えるかもしれない。

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意外にも実用的な荷室

荷室についてはスペック上563Lと公表されているので、スタイルに見合わない実用性を備えている事は予め頭で理解できていた。故に後部座席の居住性ほどの意外性はない。

しかし実際に目の当たりにしてみると、やはり広大だ。家族4人でのキャンプは無理だろうが、2人分、工夫次第では3人分くらい飲み込むかも知れない。

アルテオン 荷室 ラゲッジルームApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO50)

その一助となるのがサブトランクだ。サブトランクの有用性については愛車パサートオールトラックで実感しているところである。

前述の通りこの試乗車にはDYNAUDIOオプションが装着されているが、ライフスタイルによってはそれを付けずに荷室容量を確保しても良いかもしれない。何故なら、パサートオールトラックのオーディオはノーマル状態でも非常に音質が良い事を知っているためだ。詳しい理由は分からないが、非常に大容量のアンプとスピーカーを搭載しているため音域に余裕があるのが一因であるようだ。おそらくアルテオンもそれは共通だろう。

アルテオン サブトランク DYNAUDIOApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/90 sec, ISO100)

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ドライブインプレッション

より細かいドライビングプロファイル機能

フォルクスワーゲン車に搭載されている「ドライビングプロファイル」機能。車種やグレードによって設定項目は異なるが、簡単に言えばステアリングフィールやシフトプログラム、ダンパーやスロットルレスポンスなどを好みに変えられる機能である。

アルテオンの設定画面を開くと、一見DCC(アダプティブサスペンション)搭載のパサートと同じかと思いきや、カスタム項目を開いてみると、DCCの設定をより細かく変えられることが分かった。

パサートではコンフォート、ノーマル、スポーツの3段階なのだが、アルテオンではほぼ無段階に選べるのだ。まあ、ここまで出来なくてもいいだろうとは思うが、例えば元プジョー乗りの筆者の場合「ノーマルだとやや固いけど、コンフォートよりは引き締めたい」と思う事も、稀に無くはないので、そうした類の要望にも応えてくれるだろう。

ちなみによく見ると「スポーツ」より固くする事も出来るんだな・・・

アルテオン ドライビングプロファイル

Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/90 sec, ISO100)

しっとりしたステアリングフィールが良い

元々フォルクスワーゲンのパワーステアリングはとても良く出来ていると感じている。それは「全速度域において適度なアシスト量」と「豊富なロードインフォメーションによる接地感」によるものだ。

VW車のステアリングは、パッと握った感じ、特に低速域では「意外と軽いな」と感じるだろう。筆者も最初にパサートヴァリアントを試乗した時にはそう感じたし、非力な細君がうちのパサートオールトラックをスイスイ操っている様子からもその軽さは伺える。しかししばらく走らせてみると、アシストが実に自然なのでフワフワした不安な感覚がなくしっとりとセンターに戻ろうとする心地よい反力を感じられる事に気づく。多くの車で、特に低速域でアシスト量が適切でないが故にスカスカ、フワフワした感覚になってしまっている事が多いが、VWは上手く仕上げている。もちろんアウトバーンを走るために作られた車だ。速度が上がるほどにアシスト量は減り、高速域では何の不安もないどっしりとした安定感をもたらしてくれることは言うまでもない。モータージャーナリストの河口まなぶ氏が「MQBベースのパワステフィールは世界一」と評しているのもうなずける。

そしてアルテオンだ。ディーラーの駐車場を出てハンドルを切った瞬間に、アルテオンのパワステは我が家のパサートオールトラックのそれよりも一段としっとり感が増していると感じた。ヌルっと回る感じが、前愛車の旧プジョー308SW(T7型)の電動油圧式パワステの変態的なまでの濃厚なステアフィールを一瞬だけ思い出させてくれた程だ(もちろんあれほど重くはないが・・・)。

実はアルテオンのステアフィールに関してはレビュアーによってまちまちだ。「軽すぎる」というレビューもあれば「スポーティでダイレクト(これは恐らくスポーツモードでの感想)」というレビューも見られる。しかし、単純に「軽いか重いか」はあまり問題ではなく、「適切なアシスト量によるしっとり感」と「豊富なロードインフォメーションによる接地感」については、世にも濃厚なステアフィールを持つ旧308SW乗りとしても非常に好ましい印象だ。

「R譲り」の猛々しさを隠そうともしない心臓部

これである。

5600〜6500rpmで最高出力280ps、そして1700〜5600rpmという非常に広いバンドで350Nmという最大トルクを発生するアルテオンの心臓部は先代ゴルフRと同等であり、後に30ps/50Nmパワーアップした現行ゴルフRともチューン違いの兄弟関係だ。問題はその猛々しいパワーソースがアルテオンというエレガントなキャラクターに対してどう料理されているか、だ。

エンジンに火を入れる。「ドウゥン」という割と勇ましい音で立ち上がる。

その後の出だしは頗る軽い。停止状態から軽くアクセルを踏むと軽快に「クッ」と前に進む。ガソリンエンジンの美点だ。DSGは発進がギクシャクする、なんて話をかつてよく聞いたが、パサートオールトラック含めてそう感じたことはないので、改善されているのだろう(逆にマツダのようによく出来たトルコンATとの違いもよく分からないが・・・)。

周囲に合わせてゆっくり街中を流す。マナーの良い7速湿式DSGが低い回転域でスッ、スッとスムーズにシフトアップしていく分には至って静粛なサルーンだ。先ほどイグニッションオン時に聞こえた勇ましい「ドウゥン」は気のせいだったのかな。

さて、幹線道路に合流する側道に入る。前方クリア。「スポーツモード」に切り替えてアクセルを踏み込んでみる。

 

「あっ、やばっ」

 

すかさずアクセルペダルから足を離す。

 

さて、この「あっ、やばっ」と感じた背景は2つある。1つは当然ながらパワー感だ。実は2000〜4000rpm辺りでの絶対的なトルク感は190ps/400NmのTDIエンジンを積むパサートオールトラックと似たりよったりなので驚きはない(もちろん十分以上にパワフルなのだが)。問題はそこからさらに衰えを知らずパワーが伸びていくことだ。4000rpmを超えても5000rpmを超えても350Nmものトルクが持続しようものなら都内では恐怖すら感じるほどだ。それもそのはず、アルテオンの0-100km/hタイムはスポーツカー並みの5.6秒。恐怖以前に秒でお縄頂戴である。

しかしこれは「R譲り」のエンジンなのだから予め分かっていたことだ。「あっ、やばっ」にはもう一つの理由があるように感じた。それは「音」だ。

その麻薬のようなサウンドをこれでもかと聴かせてくる

この優美なエクステリア、そして余裕の居住性というキャラを忘れたように、アルテオンは意外にも迫力あるサウンドを聴かせて来る。しかもその音が実に快感なのだ。3000rpmを超えた辺りから盛り上がりを見せはじめ、4000rpmを超えてさらに「クオォォォン」という快音を轟かせる。

実は前愛車のプジョー308SWの1.6Lガソリンターボ、通称プリンスエンジンの音もかなり好きな類だった。2500〜4500rpm辺りの、オーソドックスなスポーツカーを思わせるサウンドは非常に気持ちの良いものだった。しかし5000rpm辺りに近づくと雑味が増えるのであまり上の方まで回したいとは思わなかったのだ。もっとも、回さなくても日常域で気持ちいい、という美点として捉えていたのだが。

このR譲りの2リッターTSIの場合には、リミッターまで回しても雑味があまり感じられないのが凄い。

人によっては煩いと感じるかも知れないが、それはこのエンジンが他よりも煩いのではなく、気づいたら回したくなっているからだ。そしてその時のサウンドは(好みにもよるだろうが)ある一定のクラスターにとっては間違いなく、気持ち良いスポーティなサウンドだ。もとい、スポーツカーのサウンドだ。

これ、間違いなく、聴かせている。そう確信したのは、ドライビングプロファイルでこの画面を発見したときだ。

アルテオン ドライビングプロファイル サウンド

Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/60 sec, ISO200)

「エンジン音:オン/オフ」

これ、最初は気づかなかったのだけど、実は「スポーツ」モードにするとデフォルトで「オン」になるようになっていて、全ての項目をカスタマイズできるモードを選ぶと出てくる画面である。

営業さんが「サウンドアクチュエーター」と呼んでいたこの機能、疑似音ではなくどうやら実際のエンジン音、排気音を活かして増幅させる機能のようなのだが、わざとらしさが無く実に自然なため、この画面を見なければその機能の存在に気づかなかったかも知れない。

しかもその仕組み上、静かな3000rpmくらいまではそもそも増幅させる元のサウンドが静かなのでほとんど違いが出ず、元のサウンドが勇ましくなる4000rpmくらいより上では逆に一気に増幅されるので余計に猛々しいサウンドになるのだ。気分が盛り上がることこの上ない。

たまに似たようなもので擬似音を聴かせる機能もあるが、その類だと不自然でオフにしたくなる場合もあるが、この仕組なら積極的に使いたいと思える。しかも、もし好みに合わないなら「オフ」に出来るところが素晴らしい。

これは快感を招く麻薬だ。

さて、ここで話を戻そう。実は、この増幅された音が、筆者に「あっ、やばっ」と言う自制心を働かせてくれたというのも事実なのだ。もしかするとこのアルテオンのキャラクターからすると過剰とも言える演出にはそういった効果も期待できるのかも知れない。

いずれにしても、「静かで快適なサルーンです」というメッセージに比較して3倍くらいの濃度で「R譲りの走りを楽しんじゃってくれYO!」という思想を、この一連のサウンド体験から読み取れたことは確かである(実際、この機能は「R」や「GTI」に搭載されているものらしい)。

最後に実際のエンジンサウンドを、サウンドアクチュエーターON/OFF比較含めて録画してみた。もっとも、空ぶかしなので4000rpmでリミッターがかかるため、前述の通りあまり違いは感じられないかも知れない。

ペラペラのタイヤで「普通の乗り心地」を実現する魔術

最後に足回りの話を少々しよう。正直な所、都内の一般道を30分ほど走っただけなのでそこまで詳しいインプレッションは出来なかったが、1つだけ言えるのは、愛車のパサートオールトラック、あるいは以前試乗したパサートヴァリアントと大差ない、ということだ。強いて言えば3cmだけ最低地上高を高められたパサートオールトラックの方がしなやかなストロークで段差をいなすのが上手いかも知れない、という程度。つまりは、非常に良く出来ていると感じた。

まあ当然といえば当然だろう。アルテオンの方が一回りボディが大きいとは言えほぼ同じ重量、足回りも基本的にはフロントストラットにリアマルチリンクで、DCCと呼ばれるアダプティブサスも共通だ。

しかし車を降りてタイヤを見て驚かされることになる。

アルテオン タイヤApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/540 sec, ISO25)

ペラッペラジャマイカ。20インチホイールに扁平率35%。

筆者はこのタイヤを見てあるものを思い出した。

SOURCE : Amazon.co.jp

そう、こんなミニ四駆みたいなタイヤであの乗り心地を実現していたのだ。一昔前ならコンセプトカーにしか履かされなかった、公道なんて走ったら「ボラギ○ール」を買いに薬局へ走る羽目になりそうなタイヤである。

ちなみに愛車のパサートオールトラックのタイヤはこちらだ。

パサート ヴァリアント オールトラック 外装 エクステリア 外見 タイヤ ホイール

245/45 R18

これだって十分に薄っぺらいと思うのだが、それよりもあからさまに薄いミニ四駆みたいなタイヤでパサートと遜色ない乗り心地を実現する辺りに、フォルクスワーゲンの底力を見せつけられた思いがしたのである。

もちろん「タイヤが薄いこと=良いこと」とは限らない。たまたま昨今の流行りにおいては一般的にその方が「デザイン性が高い」と評される風潮があるというだけで、時代が変われば、あるいは人の嗜好によってはそうでない場合も当然ある。しかし、「時代に求められれば、不可能と思えることでも実現出来る」という技術力そのものには敬意を払わざるを得ない。

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アルテオン試乗インプレッション:まとめ

総じて言うならばこんなところかと思う。

アルテオンはアウディすら食って掛かる自らへのアンチテーゼかも知れない

愛車であるパサートオールトラックは大好きだ。現状、これ以上筆者の今のライフスタイルにマッチする車は多くはない。

一方、従来筆者はフォルクスワーゲンというブランド自体にはさほど傾倒していなかったというのが正直なところだ。市場に出す車の意外性やデザインの妙という点ではやはりイタフラの方が面白いと思っていた。フォルクスワーゲン車は優秀だが、地味で面白みに欠ける。ような気がしていた。

しかしアルテオンを見て乗って、その印象は大きく変わった。このブランド、実はとんでもない底力と、意外な「エロさ」を持ってるぞ。そう思わせてくれた。

もしかすると、アルテオンはそうした自社ブランドイメージへのアンチテーゼすらも担っているのかも知れない。アンチテーゼついでに、グループ内のプレミアムブランドであるアウディにすら食ってかかれる実力をこの車は持っている。何しろアウディで直接のライバルに当たるA5スポーツバックTFSIクワトロよりもパワーは上で価格は100万円近く安いのだから!

筆者のライフステージやライフスタイル的に、自分がアルテオンオーナーになることは無さそうな気がするが(「こんなにべた褒めしといてそんなオチかい!」というツッコミに対しては、恋と結婚は違うんですよ、と知った風な事を言っておく)、フォルクスワーゲンというブランドの面白さを再発見させてくれた一台であった。そう言う意味で今回の試乗は実に濃いものだったと言える。

なお、上でも少し触れた通り本国では既にビッグマイナーチェンジが発表されており、日本にもそう遠くないうちに導入されるだろう。そのビッグMCではパサートとの差別化がさらに進められているようなので、ついこないだまで同類だと思ってたのに抜け駆けされたような寂しさを感じるパサートオーナーであったそちらの試乗も楽しみである。

今回の試乗車の基本情報

車種・グレード・価格 アルテオン 4MOTION Elegance(625万円)
他のグレード・価格 R-Line 4MOTION Advance(625万円)
発売時期 2017年10月25日(2020年5月1日マイナーチェンジ)
駆動方式 4WD
エンジン 2.0 L 直列4気筒ガソリンターボ
出力・トルク 280ps/350Nm
車両寸法 全長 4,865 mm x 全幅 1,875 mm x 全高 1,435 mm
車両重量 1,700kg
荷室容量(5人乗車時/後席収納時) 563 L/1,557 L

アルテオン メーカー公式サイト

Arteon | セダン | フォルクスワーゲン公式
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コメント

  1. 通りすがり より:

    貴殿が試乗されたグレードは、バンパー形状から推察すると「エレガンス」ですね。
    で、「R-Line」というグレードが別にあるのはご存知ですか?
    それが貴殿が書かれている「バンパーのサイド部分に彫りの深いエアインテークのような造形が加えられることでグリルとバンパー周りがより引き締まって見えるように」のバンパーです。
    これは、本国でなくとも日本でもすでに販売されているデザインです。
    思い違いをされているかもと思い、念のためコメントさせていただく次第です。

    • 10max より:

      コメント、ご指摘ありがとうございます。
      確かに現行モデルの画像でした・・・
      新型発表の時のイメージカラーとは違うな、とは気になっていたんですよね。
      早速画像と記述を差し替えさせていただきました。
      大変助かりました。

  2. ブヒブヒ より:

    アルテオン、走りも良さそうですね。
    個人的には価格も高いし、あまり興味ないスタイルだったんですが、
    プジョー508、新208あたりと同様に見慣れてくると最近はアリかなーと感じてきてます。
    あと海外で発表されたシューティングブレーク版カッコいいですね。

    • 10max より:

      ブヒブヒさん、おはようございます。
      アルテオンは僕も価格帯高いし、同じくスタイルもそこまで好きではないのですが、中身はいいですし、見慣れてくるとカッコいい気がしますね。
      そうそう、本命はシューティングブレークの方なんです!
      将来中古でなら狙うのもありかもです^^