フォルクスワーゲン & パサートオールトラック

良いパワステって何だろう? | 一見地味なフォルクスワーゲンのパワステに見る1つの解と未来

突然ですが、良いパワステってどんなものでしょうね。

センターがしっかりしている?

適度な重さ?

ロードインフォメーションや接地感?

適切なギアレシオ?

色々な要素がありますが、車の目的や用途によっても変わって来そうですね〜。難しいなあ。

難しそうだから気にしなくていっか!

・・・てな事を言うと「こんな所でやめるなんて無責任だ!」などとおっかない人達に怒られてしまいますね。ましてや筆者は潰瘍性大腸炎とかでもないですから・・・

という事でまずは何故こんな事を考え始めたのかというお話をしたいと思います。

※ところで最初に申し上げておきますが、本記事は決して万人にとってVWのパワステが絶対的に他社より優れている、という主旨のものではありません。筆者の個人的な感覚・価値観と限られた経験から一つの考え方をご紹介しているに過ぎませんので、考え方の一例としてご参考になればと言うのが主旨です。

VW フォルクスワーゲン パサートオールトラック PassatAlltrack

OLYMPUS E-M1MarkII, LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S. (17mm, f/3.5, 1/80 sec, ISO200)
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ステアリング難民の履歴書

前愛車プジョー308SWを含め、そこからの買い替え経緯の中で見てきたパワステ迷走劇を少しご紹介します。なお、以下のインプレは「パワステのフィーリングのみ」に限った個人的感想であり、車そのものの評価は全く別(かなり良い=殆ど購入しかけていた)である事をご承知おき下さい。

プジョー308SWの濃厚な電動油圧パワステは病みつきになれど、濃厚過ぎた

筆者は現在フォルクスワーゲンのパサートオールトラックに乗っていますが、その前の愛車はプジョー308SW(2012年式の旧型=T7)でした。当時のプジョーが採用していた「電動油圧式」というパワステは非常にマニアックで、このフィーリングが実にしっとりと濃厚で、今でも忘れられないという代物です。以下、手前味噌ですが308SWのオーナーズレビューの一節です。

一瞬「重い」と感じる。でも実はただ単に重いんじゃない。油圧であるが故に初動が非常にしっとりしているんだ。だから普通の電動パワステのような「スルスルッ」という感じではなく、「ヌルヌルッ」と回る。

これはクセになる。

(中略)

しかも、低速から高速まで、ロードインフォメーションが非常に豊富だ。今車がどういう路面を走っているのかがこの本皮ホイールを通じて実にリアルに伝わってくる。

お別れの日にT7型プジョー308SWをオーナーズレビュー的に振り返るの巻【ありがとう猫バス君!】
今日、8年間我が家の思い出を運んでくれた猫バス君ことT7型308SWとお別れをして来た。寂しいけれど、今日のうちに猫バス君がどのように素晴らしい相棒であったのかをオーナーズレビューとして振り返ってみたいと思う。 ワーゲン君、今日は君の納車記...

しかしこのお気に入りのパワステにも問題があり、それは非力な女性にとっては少々重すぎる、と言うことでした。電動パワステに比べると電動油圧はアシスト力の調整の柔軟性が低く、ダイレクト感を重視しようとするとアシスト量を多く出来ない(=重くなる)、というトレードオフがあるのです。

プジョー 308SW シート 運転席

OLYMPUS E-M1MarkII, LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S. (34mm, f/3.8, 1/60 sec, ISO250)

i-Cockpitに一目惚れも、低速域のフワフワが玉にキズだった5008

308SWからの乗り換え候補として有力だったのが同じプジョーの5008SUVでした。5008はi-Cockpitを採用しており、その最も大きな特徴が低い位置に取り付けられた小径ステアリングで、今日でも非常に斬新さを感じさせます。

筆者はi-Cockpit自体は非常に大好物です。このステアリングの位置と小径ホイールは、商用車ベースのハイトワゴンであるリフターでさえクイックに回頭させ、スポーティなフィールに変えてしまう魔法のギミックなのです。

プジョーリフター お忍びで初試乗! | 商用車ベース離れしたデザイン性、圧倒的なユーティリティに必要十分な動力性能をプラス
さて、先日の記事の通り、来年丸9年4度目の車検を迎える前に中々気合いの入った整備見積りが提示された我が愛車2012年式T7型308SWの状況を鑑み、買替え議論が風雲急を告げて来た感がある筆者宅です。(←更新ズボラにつきこの下書きを温めている...

ところが唯一残念なのが、その電動パワステのフィーリング。i-Cockpitになって通常の電動パワステに移行した結果、中高速域の安定感に反して、低速域では急にフワフワした接地感の乏しいフィールになってしまうのです。その感覚については筆者と同じ2012年式308SWにお乗りのフラとこさんも全く同様のレビューを書いておられます。

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優れた電動油圧式パワステを提供してきたプジョーは、一方で通常の電動パワステでのノウハウは途上だったのかも知れません。余談ですが、油圧系のパワステではレーンキープアシスト等のADASも実現できないため、それも視野に入れてプジョーも電動パワステに切り替えたのでしょう。

プジョー 5008 試乗

Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/60 sec, ISO200)

CX-8のパワステは何となく良いけど何となく頼りない

筆者は308SWからの有力な乗換え候補としてマツダCX-8にも何度か試乗しました。

マツダも人車一体感を訴求しているだけあって全体的に及第点ではあるものの、低速域での接地感は5008に比べると良い代わりに、逆に高速域でのどっしり感や接地感は相対的に乏しい感じがしました(比べる対象がフランス車だからであり、日本車としては優秀なのだと思いますが)。

マツダ CX-8 運転席

以上の通り、全てのワガママを満たしてくれるパワステに出会えないまま悶々とした日々を過ごしていた2020年初春なのでした。(いや、正確には上記のパワステの気になる点なんて大した事ではなく、悩んでいたのは別の理由なのですが)

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フォルクスワーゲンのパワステ?何それ美味しいの?と思っていた。けど・・・

フォルクスワーゲンのパワステがよく出来ているというのは話には聞いていました。モータージャーナリストの河口まなぶ氏もパサートTDIの試乗レポートの中で、「MQBの電動パワステは世界で見ても一番の完成度の高さ」と評しています(1分25秒あたり)。

しかし、正直初期の印象としては何がそんなに良いのかいまいち分かりませんでした。パサートヴァリアントの試乗で人生で初めてフォルクスワーゲンのステアリングを握った時、そこまでの深い印象は有りませんでした。むしろ感じたのは

「ん?ドイツ車の割に意外と軽くね?てか、何これめちゃくちゃ普通じゃん?」

というものでした。普通過ぎるんですよね。実際に、フォルクスワーゲン車のレビューには上記の河口氏のようにパワステを褒めるレビューだけでなく、ステアリングフィールが軽すぎる、という感想もしばしば見られます。

しかし試乗を重ねるにつれ、そして上で整理したここ最近の難民っぷりを思い出すにつれ、あることに気付き始めたのです。

それは「いつ何どきにおいても違和感が顔を出さない」と言う妙

一言で言えばそういう事になるかと思います。これが第一印象での「普通過ぎる」に繋がる事になるのですが、実はこれってとても難しい制御なんじゃないか、と言うのが、本記事のポイントなのです。

まず、低速域での重さについては、パサートでは全く感じません。むしろ妻はスーパーに買い物に行く際に「ハンドルが軽くて小回りが効くようになった」と大変ご満悦です。ちなみに全長が約25cmほど伸びたことについてはまだちゃんと伝えていません(・∀・)(ちなみに前愛車から最小回転半径も5.5mから5.4mへと小さくなっていることも確かです。)

では低速域で軽いからと言って接地感が乏しいかと言うとそんな事はありません。まず、路面の凹凸やザラつきと言ったインフォメーションを細やかにステアリングホイールの振動に変えて伝えてくれるので、状況が非常に分かりやすいです。またアシスト量を緻密に調整しているためか、不自然さのない極めてしっとりとした反力が自然にステアリングホイールを中立方向へと向けてくれるので、スカスカせずに非常に節度を感じます。

最後に高速域ではどうかというと、速度を上げるにつれて反力を強め、高速域では気づけば指を2、3本添えれば済むほどにどっしり安定します。その反力は速度が低速から中速~高速に上がるにつれて気づかないほど徐々に変わっていくため、唐突感は全くありません。

つまり総合するに、ドライバーにその存在を意識させることが無いくらいに常に極めて自然なアシスト量と反力を生み出す事を目指し、既にある程度高次元で実現しているのがフォルクスワーゲンのパワステの凄さなのではないか、というのが筆者の考えです。なので、筆者含め多くの人に「何これ普通じゃん」という第一印象を感じさせるのではないか、と。

そして上の3つの例を勘案するに、それは決して簡単なことではなく、速度やステアリングの回転量、直進安定性等に応じて緻密にアシスト量や反力を制御する必要があり、少しでも不協和音が発生すれば途端に「パワステの妙な存在感」という名の違和感に繋がってしまいます。

しかしまあ、すごい技術力なんでしょうけど、その結果「存在感が無くなる」というインプレッションに繋がるのだから何とも地味ですが、車はそうした地味な技術の積み上がりで進化しているのだから敬意を表するしかありません。

これを1つの解として、あとはど味付けるか

さて、このように恐らくフォルクスワーゲンのパワステというのはある意味1つの理想解なのかも知れませんが、「最高のパワステだ!」と手放しに感じている訳でもありません。

ネガが非常に少なく良く出来ている一方で「印象が薄い」(あるいは官能性が低いと言ってもいいかも)という側面もあります。家族で共用する筆者としては全く問題有りませんし、ドライビングプロファイルを「スポーツ」モードにすれば重厚な感じも出せます。ただ、もう少し趣味性の高い使い方をしたい層にはそれこそかつての愛車308SWの電動油圧式のような激烈に濃厚なフィールが良いかも知れません。

しかし優れた制御技術はすでに有るのだから、あとは車のキャラクターによってどう味付けするか、という世界のような気もします。その1つの例として、アルテオンではパサートよりもさらにしっとり感が強かったように感じました。まさに前愛車308SWの電動油圧パワステを少しだけ思い出した程です。RやGTIも似た味付けなのかな。

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パワステの制御、何だか面白く思えてきましたよ。

パサートオールトラック Discover Pro 液晶 指紋

OLYMPUS E-M1MarkII, LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S. (38mm, f/3.9, 1/320 sec, ISO200)
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やがて優れた自動運転へ

さて、パワステを面白くする話をもう一つ。パワステって比較的古く身近な技術と言うイメージがありますが、実はこれ、イケてる自動運転を実現するために必要不可欠な技術なんですよね。

上の方で少しだけ触れましたが、プジョーが電動油圧式から電動パワステに転向した理由の1つにADASを視野に入れるためというのが有ったのでは、と申し上げましたが、実は上記のフォルクスワーゲンの「存在感を感じさせないパワステ制御」は既に非常に自然な「半自動運転」に役立っています。

既にこの夏の何度かの高速ロングドライブでパサートのADASが「半自動運転」と呼びたくなるレベルだと言う話をしましたが、それには非常に自然で正確なステアリング制御が貢献しています。

その自然さは、高速道路の緩いRをトレースする際、自分でステアリング操作をしているのか、レーンキープアシストの制御によるものなのかがよく分からない程です。

パワステという技術は1876年にアメリカで登場しました。それがこうして21世紀において次世代の運転体験の要素技術になっていくという事を、150年前に誰が予想したでしょう。

パサートオールトラック ロングツーリング 高速道路

Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/2309 sec, ISO25)

※パサートオールトラックでのロングドライブ記録はこちら

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まとめ

タイトルの「良いパワステって何だろう?」に対する回答ですが、それは「どんなパワステを求めるかによって変わってくる」と言う他ありません。しかし今回考察した様なフォルクスワーゲンの緻密な制御は、ある意味車のキャラによってどんな味付けをも実現できる可能性を秘めていると言う事も出来そうです。

さて、フォルクスワーゲンのパワステが地味過ぎて何がいいのかよく分からない!と言う所に端を発した本記事ですが、実は技術が進化すればするほど人がその裏にある技術を意識する事が減り、誰でも使える生活の中の当たり前の道具になっていく、そんな一つの例なのかも知れませんね。

そういえばフォルクスワーゲン車って昔から「誰が乗っても初めて運転したとは思えないくらいすぐに馴染む」と言うような話をよく聞きます。

それこそがフォルクスワーゲンの技術力の表れなのだと思いますが、しかしそれは同時に知らず知らずのうちに将来の運転体験を見据えた実験のまな板の上に乗せられていると言う事なのかも知れませんね。

パサートオールトラック シフトパドルOLYMPUS E-M1MarkII, LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S. (60mm, f/4, 1/125 sec, ISO1600)





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