今日、8年間我が家の思い出を運んでくれた猫バス君ことT7型308SWとお別れをして来た。寂しいけれど、今日のうちに猫バス君がどのように素晴らしい相棒であったのかをオーナーズレビューとして振り返ってみたいと思う。
ワーゲン君、今日は君の納車記念日でもあるけれど、兄貴に敬意を表して今日の紙面は今まで頑張ってくれた猫バス君に譲ってあげようじゃないか。
少しアンニュイだった308SWとの初対面
8年前。
初めてプジョーディーラーで308SWの試乗車を見た時の印象は一目惚れと言うには程遠かった。
なんだろうこの不思議な見た目は。
特に後ろ姿。
当時僕のイメージにあったステーションワゴンと言えば、レガシィツーリングワゴンやアテンザワゴンなどであり、それらの伸びやかなシルエットとなだらかに傾斜したリアセクションに比べると、この子は、スパッと切り立ったリアハッチ、ボンッと出たお尻・・・どうも何かアンニュイだな。そんな印象を持った。
308SW、最初に惚れたのは内装だった
何はともあれ試乗だ。僕は運転席のドアを開けてドライバーズシートに収まった。
印象はガラリと変わった。これ、何だかいいぞ。
スポーティな4眼アナログホワイトメーターに、エアコン吹出口とシンクロしたクローム加飾がエレガントさをひと匙加えている。
ソフトな素材で覆われた質感の高いダッシュボードからインストゥルメントパネルへとかけて大きく傾斜しているのもまるでスポーツカーのようだが、その先に鎮座するシフトノブは美しいクロームで加飾され、やはりこの車はただ闇雲にスピードを上げることだけが楽しみではないと訴えかける奥深さを醸し出しているようだ。
それも当然かもしれない。何しろこの車は、ドライブトレーンや内外装を、プジョー史に輝くスペシャリティスポーツクーペ、RCZと共有しているのだから。
シートもいい。
張り出したサイドサポートと赤いステッチは高い運動性能を感じさせながらも、美しい曲面で構成されたファブリックと程よくコシのある座り心地は、やはり逸る心を落ち着かせる品性を感じさせる。
もちろん評判通り文句のつけようのない乗り心地だ。僕はこのシートに座って雪山へキャンプへと何時間でもステアリングを握っていられる自信がある(ただし残念ながらトイレは近い方だ)。
僕はもう一度車外に出てみた。
最初にエクステリアを見た時の印象は、気づけば一変していた。
あれ?こいつ、案外可愛いとこあるじゃん。
僕は、自分にしか見いだせないこの子の魅力を見つけた気がして、少し嬉しくなった。
車の話だ。
何だかんだ言って決め手は空の広さだった
再び運転席に腰を落ち着ける。助手席には営業さん、後部座席には妻と4歳の長男、2歳の次男が座っている。
地下の駐車場から環状八号線に出た瞬間に、後部座席から歓声が上がった。
長男:「うわー、おそら、あかるい!」
妻:「わー、これいいね〜」
次男:「あわー、あわー」
そう、この車の特等席はパノラミックガラスルーフを堪能できる二列目だ。
僕は家族や友人に特別な体験をプレゼントするホスト役になることができる。
そんな車だ。
納車したばかりの2012年春頃、ブログを休眠していた僕は、Facebookでこのパノラミックガラスルーフのことばかり呟いていたようだ。
しかし、観客を喜ばせるホストになる事も大切だが、もっと大事なことがある。
何しろこれは車の話だ。
街中でこそ一番美味しい308SW・プリンスエンジンのサウンドとフィーリング
慣らし運転規制解除間近の頃の僕自身の投稿を見つけて驚いた。
知人とのコメントのやり取りも含め表現がやや下世話であることはさておき、慣らし運転の段階でこの魅力に気づいていたとは我ながら思いもしなかった。3000回転に達していないにも関わらずそれだけこのエンジンのフィーリングが印象的だったと言うことだ。
そう、このBMWと共同開発の1.6Lガソリン直噴ターボエンジン、通称プリンスエンジンの魅力は、2500〜4000回転くらいの常用中回転域がとても美味しいのだ(それ以上はやや粗っぽい感じになるが、中低速トルクが強いのでめったに使わない)。
市街地で少し前が空いた時
バイパスに合流する時
交差点を曲がって加速する時
高速道路で2000回転巡航から追い越しをかける時
惚れ直すタイミングが多すぎるってのも困った話だ。
ホストで居ることに物足りなさを感じたら、こうしてこいつと二人きりで出かければ気分は爽快になる。
スルメのように味と中毒性のある308SWの油圧電動ステアリングフィール
エスクテリアがアンニュイだという話をしたが、それ以外にもこの子には少し変わったところがある。それがステアリングだ。
聞いてみれば、これはただの電動パワステではない。「電動『油圧』パワステ」というのだそうだ。
一瞬「重い」と感じる。でも実はただ単に重いんじゃない。油圧であるが故に初動が非常にしっとりしているんだ。だから普通の電動パワステのような「スルスルッ」という感じではなく、「ヌルヌルッ」と回る。
これはクセになる。
直進時にはどっしりと双輪の向きを安定させ、そこから微妙に舵を切ろうとする時、クルクルと節度なく回りすぎることなく、しっとりヌルっと意のままのところまでステアリングホイールを回すことが出来る。実にスポーティだ。
しかも、低速から高速まで、ロードインフォメーションが非常に豊富だ。今車がどういう路面を走っているのかがこの本皮ホイールを通じて実にリアルに伝わってくる。(乗ったことはないが、電動油圧パワステのフィーリングは、パワステを介さない「生ステ」に近い感覚と言われている。)
この車を降りて他の車に乗ると、走り出してすぐにそのフワフワ感に少しだけ戸惑ってしまうことがある。これが電動パワステと電動油圧パワステの一番わかり易い違いかも知れない。
ところでプジョーでも308のモデルチェンジでこれを廃してしまったようだが、おそらくi-Cockpitの小径ステアとの相性が悪かった故ではと推察する。しかしi-Cockpitはそれにより全然別次元の魅力を得たのでそれはそれで素晴らしいと思う。またプジョーの電動パワステは低速時こそフワフワするが、高速でのドッシリ感には惚れ惚れするものがある。設計思想を感じる。
僕をファミリーキャンプに誘ったのは誰だ?
実は308SWに出会った頃は家族でキャンプに行くなんて考えても居なかった。今では車選びの基準としてキャンプでの使い勝手を滔々と述べているくせに、だ。
この車にたどり着いたのは、いざと言う時に7人乗れて、運転が楽しい車、という条件によるものだった。そして僕はこの「ハッチバックに毛の生えた様なサイズに意外にも三列シートを抱え込んだ少々変わり者の車」に行き当たったのだ。
(余談だが当時のブログに辛うじて残っていた記録によると、「C4ピカソ」と言う車名が同時に候補に上がっていた。当時僕はフランス出身の妖怪か何かに取り憑かれていたのだろうか・・・)
ところがこいつは「少々変わり者」どころではなかった。誤解を恐れずに言うならば、「変態」と言っても過言ではない事に、ある時気づいた。
「ぼ、僕の付き合っている人が、へ、変態・・・?」
車の話だ。
次男が幼稚園に入り、僕がキャンプに興味を持ち出した頃になって初めて、この車にはキャンプギアとしての素質が、いや、天賦の才能が備わっていることに初めて気づいた。それは圧倒的、いや、変態的なシートアレンジの柔軟さと、このサイズにしては奇跡的なラゲッジ容量だ。
運転席から後部座席を振り返った際の光景にはうっとりする。そのうっとり具合たるや、自分が何フェチなのか分からなくなるほどである。なんと三座独立で、一つ一つ独立でリクライニングをしたり倒したりすることが出来るのだ。これは4人乗車で大量のキャンプ道具を積載する際に大変都合が良い。
さらに、二列目と三列目のシートは全て独立して取り外すことが出来るという変態っぷりである。
後部座席を全て取り外せる・・・だと・・・?この車を作った人は一体何を考えているのだろう。
※ちなみにフォルクスワーゲンのゴルフトゥーランにも、二列目、三列目を取り外せる機構が採用されていた(いる?)らしい。フランス人もドイツ人も変態ばかりで素晴らしい。
しかしこの変態的仕様は僕にとって幸いした。僕はこの頃薄々気づいていたのだ。
「結局三列目なんて全然使わないじゃん・・・」
結果的にこの三列目は車検の時以外は常に物置に鎮座することとなった。(そもそも「車検の際には三列目シートが装着されていなければならない」と言うルール自体、三列目を外せなければ知る由もない。)
そして三列目を取り外すことにより、573Lというこのクラスにしては望外のラゲッジ容量を得ることに成功した。
(そういえばCX-8の六本木でのお披露目会場でマツダの担当の方に「三列目シートを取り外す方法は無いですかね」と尋ねて困らせてしまいました。すみませんでした)
ただ、残念なことが一つある。購入当初友人たちによく「え!この大きさで三列シートなの!?」という驚きのコメントをもらってニヤニヤしていたものだが(←オーナーも変態)、三列目シートを常に外す事にしてしまったが故にそれが出来なくなったのである。
308SW、それは見た目も中身も兼ね備えるカッコよさ
見た目や世間体ばかりを気にするタイプではないことは、付き合っていればすぐに分かる。ラゲッジ容量確保に一役買っている切り立ったリアハッチやボンと突き出たお尻以外に、もう一つこの車の実用主義を象徴するものを挙げるとすれば、テンパータイヤだ。
多くのメーカーがパンク修理キットでお茶を濁す中、プジョーは今でもテンパータイヤを多くの車種に積載している。スマートフォンが流行し始めた頃に、「テキストを打つには物理キーボードが最善だ」としてこだわり続けたBlackBerryのような質実剛健さを感じさせる。
お盆の最中の旅先でのバーストでこいつに助けられた記憶が、今でも車選びの際に僕をテンパータイヤから離れがたくしている。
君が残した傷跡は、今でもしっかり僕に刻み込まれているんだ。
車の話だ。
振り返ってみれば:308SWオーナーズレビューまとめ
気になるところが無かったわけではない。
例えばカックンブレーキには今でも慣れない。不意のブレーキでカクンとなるのが苦手な長男はしばしば酔う。
前席のドリンクホルダーが一つしか無いのでいつも妻の飲み物置き場に困る。
クーラントセンサーがピーピー鳴る不具合は修理方法が無いためセンサーそのものを引っこ抜いている(308SWの故障履歴に関しては別の記事に譲ることとするが、8年間で年平均3万円程度の追加修理費用がかかった)。
だけど、個人的には今でもこの308SWから乗り換えてもいいと思える車は本当に数少ない。なので、維持費が嵩み始めた6年目ころからずっと車探しをしていたが、結局のところ決め手が無かった。
今回元々予算オーバーで検討対象ではなかったパサートオールトラックに乗り換えるが、モデルチェンジと決算期の相乗効果で破格の値引提案をもらえなければ買い替えていなかったかも知れないと思う。(言うまでもなく買い替えることになった理由は308SWという車への不満ではない。高年式による維持費上昇と、家族とのアクティビティのステージを一つ上げたいと言うのが主な理由だ)
良い物は、長く使い続けたい。
良い車には、長く乗り続けたい。
だからこそ、真剣に悩み、慎重に決める。
それが、愛着につながる。
この308SWは、僕にとってその想いを強くさせてくれた相棒であり、家族だったのだと思う。
そして、今日入れ替わりで我が家にやって来たパサートオールトラックは、長い間悩んでようやくたどり着いた結論だ。
それは、家族とのアウトドアアクティビティの世界を308SWが切り拓いてくれなければ来ることが出来なかった場所だ。
猫バス君、8年間、本当にありがとう。
そしてまたいつかこのライオンマークに会いに行くよ。
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コメント
はじめまして!
“308 sw t7”で検索してやってたどり着いた者です。
Passat Alltrack納車おめでとうございます。
今まで使っていた15インチのホイールが使えるか調べていて、こちらの美しい写真に引き込まれてしまいました。私は関東出身で遠州在住なので、知っている風景も多く懐しく拝見させて戴きました。
蛇足ですが私は15年お世話になった307SWから308SW T7に乗り換えることに決めました。2.0l NA 4ATだったので1.6l TC 6ATが楽しみです。
突然のコメント、失礼しました。
CafeT2さん、コメントありがとうございます。
T7型308SWに決められたのですね!
現行308SWはだいぶ今風に洗練された感がありますが、T7は他にはない独特の世界観がありますよね^^
内装の質の高さなど、全然現役でも通じる上質さもあると思います。
しかもNAのAL4からの乗り換えだとかなりの進化を感じられるんじゃないかと思います。
よく知人からも「これ本当に1.6L?」って言われたくらい元気です!
本当にいい車だったのでお別れするのはとても寂しいのですが、こうしてこの拙文でこの車の良さを共感して下さる方がいらっしゃると、この車に乗って、この車のことをお伝えできて本当に良かったと思います^^
ぜひ楽しい308SWライフをお過ごし下さい!
10maxさん
ご丁寧にコメントバックいただき、ありがとうございます。返信が遅くなりました^^;
先日無事に納車され少し走ってきました。まだ少ししか乗っていませんが、かなりの進化を感じましたよ!
まず多段化により全体的にエンジン回転が低く、静かです。制御も、4ATは車速が上がってもなかなかアップシフトしない(Mモードを多用してました)のに対し、6ATはショックなくするすると変速します。
そしてちょっと踏み込むと気持ち良く加速してくれます。ターボ化に加えて6AT化でミッションのトルク容量が増え、出力向上したことも大きいのではないでしょうか?国道バイパス等でランプウェイが短い場合でも、ストレスなく合流できます。
内装の質感もよいですね!!(私には不相応ですが)やはり2,3列目のシートが自由に取り外せるのが最大の魅力ですね(我が家もたまにスポーツサイクルを前輪を外して3台積載しています)。子供たちが小さい頃はサッカーチームの遠征で子供6人乗せて送迎したりしていましたが、ここ数年3列目は車検以外で出番なしでした、、、あとガラスルーフの面積3割増しですね!!これは3列目の乗員に最大の恩恵があるのでしょうが、、、
308T9は306のコンセプトに戻ったのかなと思っています。3008やリフターとの棲み分けですかね?
ともあれ、T7の308SWのオーナーになれてよかったです^^
長文失礼しました。
CafeT2さん、こんばんは。
こちらこそお返事遅くなりすみません。
308SW、気に入られたようで良かったです!
僕はAL4には乗ったことがないのですが、全然違和感がなくすっすっとシフトチェンジしていきますよね。
合流などの加速も気持ちいいですよね♪
そして内装とシートアレンジは最高ですよね。
自転車を積まれるならこれ以上無い柔軟さだと思います!
T9はたしかに306的になり、今は実質5008SUVがT7型308SWの後継のような気がしています。
引き続きカーライフ楽しみましょう!
突然、2年前にアップされていた記事へコメントさせていただく形となり恐縮です。実は
本日、9年間強乗り続けて来たT7形308SWとの別れを決意し次の愛車を契約した者です。
納車は5月下旬頃とのことでお別れまでまだ2か月強ありますので、今年のGWが308SWとの
最後の長距離旅行になるなぁと思いながら何となくT7型308SW関連のネット記事を適当に探して
いたところ、偶然10maxさんのこのページに辿りついた次第です。
自分も2012年秋に同年2月登録の正規ディーラーデモカー上がりを購入、グレードはPremium
で(10maxさんが乗られていたモデルはSportiumとお見受けしました)ボディカラーは
エジプシャン・ブルーでした。
実は自分も308SWが初の欧州車(初めての愛車も実はマツダの初代アクセラセダンでした・・)
だったこともあり維持費用が非常に気になっていたので、ディーラーからの費用明細を捨てずに
全て保管して来ていて先日一度整理していたところでしたが、10maxさんがアップされていたメ
ンテ履歴の記事とほぼ同じ故障履歴と修理費用だったことや(ある意味優秀な量産工業製品だと
思います)、308SWに感じていた魅力の数々、更には308SWの次の愛車になかなか巡りあえなかった
た点まで含め、自分が308SWへ抱いていた想いの全てを見事に代弁頂けていたことに、ただただ感謝の気持ちしかございません。残り2か月強となった308SWとの暮らしを悔いなく楽しみたいと
思っております。ありがとうございました。
DrearAcrobat740様、嬉しいコメントありがとうございます。
マツダからのプジョー、同じ2012年式のT7に乗られて、そして近しい年数で嵩む維持費に悩み、次期愛車が中々決まらず、ついに手放される・・・全ての流れがとても似ていて何とも奇遇な一致ですね。
そして、やはり弱点やメンテポイントは似ているのですね・・・おっしゃる通りある意味優れた品質なのかも知れません^^;
T7型308SW、本当にいい車ですよね。
飛びぬけた性能などはないですが、他にない特徴が沢山あり、家族を楽しくしてくれる車。
ミニバンでも出来る事かもしれませんが、全く違う喜びがあります。
ただ、悩みに悩んで選ばれた次期愛車ですので、DrearAcrobat740さんの次のカーライフも充実したものになるに違いありません!
一足お先に次のカーライフに踏み出した同志として、心よりそう願っております^^
10maxさんコメントありがとうございます。実は次の愛車は「プジョー・リフターじゃない方」を
選びました。これまで面倒見てもらっていたディーラーが2ブランド併売店だったこともあり
両ブランド選択可能な中、しがないサラリーマンクルマ好きとして、どうしても「ダブルシェブロン」バッチが付いたクルマを自分の愛車遍歴に加えてみたい、という想いにも後押しされて最終的にそのような選択に至りました。308SWに近い使い方が引き続き出来そう(実質2列シートのワゴン的な使い方が99%でしたので)というのがやはり自分としては大きかったですね。今後もブログの更新楽しみにしております。
DrearAcrobat740さん、こんばんは。
なんと、次はランゴちゃんなのですね!(勝手な呼び方ですみません(笑))
リフター/ベルランゴは僕もかなり魅力的に感じていました。
あの独特の3座独立シートは他に中々無く、その意味ではT9型308SWはT7とは少し使い方が違いますもんね。
個人的にはリフター/ベルランゴや5008がT7型308SWの実質的な受け皿車種だと思っています。
最終的には、一度全然違う国のメーカーも味わいたいというのもあって購入に至りませんでしたが、今でもリフター/ベルランゴに乗っていたらどんなライフスタイルだったろうと妄想することがあるので、ちょっと羨ましいです(笑)
これはますます楽しカーライフになりそうですね〜。
引き続きよろしくお願いします!