フォルクスワーゲン & パサートオールトラックプジョー & 308SW

三月の雪 | プジョー308SWの次の愛車にVWパサートオールトラックを選んだ理由

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プロローグ

その年は全国的に暖冬で、3月に入ると時ならぬ陽気に東京の街は戸惑っていた。

しかしその日、東京の街には季節外れの雪が舞っていた。

僕は、妻と二人の子供たちと共に窓の外の珍しい雪景色を眺めながら、白っぽい灰色の空に複雑な思いを重ねていた。冬なのか、春なのか、整理を付けるのは難しい。

 

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三月の雪

3月の雪を見ると今でも思い出す光景がある。

それは200x年3月、僕が学生生活を過ごしたアパートを引き払い、入社予定だった会社の独身寮へと発った日の事だ。

既に家具などの大どころは引っ越し業者に引き渡し、最後に残った段ボールを田舎に送るために、僕はコンビニへ向かうところだった。

東京では冬でも雪が降るという事自体そうあるものではない。なのにこんな日に限って・・・東京は珍しい3月の雪に見舞われていた。

 

雪が降ると、東京の町は静けさに包まれる。いつもはその辺りを我が物顔で走っている車やオートバイはすっかり気勢を削がれ影を潜める。

その静けさの中で、僕は最後の段ボールをコンビニに運びながら、思いを巡らせた。いや、思いの前に感情が勝手に巡っていたと言った方が正しいかもしれない。

学生生活という一つの時代にピリオドを打つ寂しさに、涙を流したいのか。

自立した大人として羽ばたく新しい生活への期待に、胸を膨らませたいのか。

その双方が、自分の意思に関わらず頭の中を勝手に駆け回る。感情の持って行き方に整理が付かない。

 

3月の雪は、「冬なのか春なのかはっきりしてくれ」という僕の困惑を見透かしたように東京の空を白っぽい灰色に染め上げ続けた。僕はオートバイのスロットルを開け、凍える手を時折250cc単気筒エンジンに近づけて暖を取りながら、新しい住処への道を駆けていた。

 

そんな十数年前の甘酸っぱい記憶を辿ることになったこの1か月間の顛末を、今日は少しばかり話してみたい。

 

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一枚の見積書

全てはこの一枚の見積書をきっかけに回り始めた。もちろん、全く予想外の出来事だったわけでもない。しかしいざ現実となってみると戸惑うものだ。人間の脳は幸か不幸か、気付かないうちに居心地のよい場所に逃げ込み、現実逃避する術を知っている。

 

丸8年の間家族と共に過ごしてきたプジョー308SWの整備費用見積は20万円近いものだった。主にこの車の泣き所とされる、水回り、油回りに関するものであり、一度この症状が出ると今後同種のトラブルが繰り返される可能性が非常に高いという類のものだ。その状況は、整備を繰り返しながらこの車にあと数年乗り続けるか、翌年の4度目の車検の前に別の車に買い替えるかの決断を促すのに十分なインパクトを持っていた。

 

しかし僕はこの時気付いていなかった。ここからあらゆる歯車が回り始め、運命の1か月を迎える事になるとは。そう、僕はその一枚の見積書を見て、楽観的にこう考えたのだ。

-まあある程度予想していたことではあるし、来年の車検まで1年近くかけてゆっくり検討すればよいだろう。

僕の脳はやはり御多分に漏れず、難しい決断の先送りという逃避の指示を出したのだ。そしてその時点ではその指示は極めて合理的であるように思われた。なぜならプジョーシトロエンジャポンの決算期は12月であり、従って買い替えるにしても購入時期はその時期を目指すのが妥当であるように思われたのだ。

しかし今になって正直に告白すれば、「そう思いたかった」というのが本当のところだ。何故ならその時同時に僕の心の中の冷静な部分では、「本当にそうなのか?」という警鐘が遠くの方で鳴っていることに薄々気付いていたのだから。

 

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バチェラーのマリッジブルー

以前より次期愛車候補に上がっていたのは、筆頭株のプジョー5008、そして次点にマツダCX-8をはじめせいぜい数車種だった。語れば夜が明けるのでここでは触れないが、雪山やキャンプでの用途を重視する僕は次期愛車候補に対して割と厳しい条件を求めていて、それらの条件を満たす車種を比較的合理的かつ冷静に見極めてきたつもりだ。

 

バチェラーという恋愛ドキュメンタリー番組がある。容姿、経歴、財力を併せ持つ好男子のハートを射止めるべく複数の女性との間で繰り広げられるドタバタ劇だ。

僕はこの瞬間、バチェラーだ。

ありとあらゆる車種の中から、僕の好みや条件に合うものを自由に選ぶことが出来る立場にいるのだ。この際予算だって、僕自信が設定するのだから文句はあるまい。

その結果、僕はフランス出身と日本人の魅力的な2人の女性に絞り込みつつあった、というシチュエーションだ。

でも、僕の心は知らず知らずのうちにブレーキを掛けていた。

僕は軽々しい恋愛はしない。この人と決めたならばその人と出来るだけ長い時間を共有したい、そういうタイプだ。

だから僕は、とても慎重に考える。わずかな心の引っかかりを、僕は無視することが出来ない。

 

車選びの話だ。

5008にCX-8、いずれを選んでも、気になる点はあったとしてもそれなりに楽しい日々を送るには十分に魅力的に思えた。でも、僕はマリッジブルーに似た心境に陥った。

本当に一点の曇りもなくこの人と暮らしてみようと思える女性が、他に居るのではないか?あるいは、そういう人が現れない間は、乗り換えるべきタイミングではないのではないか?

僕は決断を先送りにしたい誘惑に囚われ始めていた。

 

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歯車は勝手に動き始めたのか、自ら動かしたのか

そのような悩ましい状況を妻に伝えつつ相談してみると、車にさほど興味のない彼女にしては意外な答えが返ってきた。

「うーん、乗りたい車が無いなら急ぐことは無いけど、本当に買い替えるなら今年じゃない?この先何年子供たちと出かけられるか分からないから、どうせ1年2年先に買い替えるなら今の方がいいんじゃない?」

僕は意外だった。車に興味がなく節約派の彼女は、当然僕の迷いを知れば買い替えを延期するべきだと主張すると思っていたのだ。そして僕は心の片隅で、彼女にそう言ってもらうことで、車を買い替える、あるいは買い替えるにしてもプジョー以外の選択をするという決断を先延ばしにしたかったのかも知れない。

 

でも彼女は、僕に選択を委ねてくれた。彼女は、僕のことをよく知っている。僕の本音を、思い出させてくれるのはいつも彼女だ。

 

かなり以前から僕の中には2つの相反する思いがほぼ同等程度の重さで、まるで天秤の右と左で釣り合うように存在し続けた。

 

プジョーが好きだ。プジョーというブランドが好きだ。次に乗る車もプジョーにしたい。

でも本当にそれでいいのか?情に流されていないか?次に乗るべき車は本当に他に無いのか?

 

そして僕の手のひらにはこんな言葉が彫られた分銅が乗っていた。

「僕は今冷静に物事を見ることが出来ているのだろうか?」

 

冷静に物事を考えるには、より多くの判断材料を集めることだ。納得できる答えを出すには動くしか無い。

そう、僕はいつだって自ら歯車を動かして来た。そして今ここにいる。

自ら歯車を動かさねば、後悔するのは僕自身なのだ。

 

彼女は僕がそう言うタイプである事を僕よりもよく知っていた。

 

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その花はひっそりとそこに咲いていた

僕は少しの恐れと少しの期待を胸に抱きつつ、気になるメーカーのディーラを回り始めることにした。

しかし事は中々思うようには運ばない。僕は月の後半は大概出張で家を空ける。2月後半にも10日間ほど異国の地へ赴かなければならなかった。心に中にマリッジブルーを抱えての海外渡航になったが、その時点ではまだ考える時間はあると思っていた。

ふと転機が訪れたのはそんな時だ。僕は悪い意味で煮詰まった頭をリセットするために、日本に帰国したら少しだけ他の女性とも会ってみようと考えた。

 

そのドイツ出身の女性は、意外にも僕との会話を楽しんでくれた。

会う前には、彼女にとって僕は条件に合わないんじゃないかと思っていたし、僕にとっても少しだけ高嶺の花だった。

しかし気づけば僕は少しずつ彼女のことが気になり始めていた。一方彼女も僕との心の距離を近づけようと努力してくれている様子が伝わってきた。

僕は少しだけ心にさざ波が立つのを感じた。

 

車選びの話だ。

つまるところ、フォルクスワーゲン パサートヴァリアント、そして派生モデルであるパサートオールトラックは、車そのものの条件は僕にとって満点だと言うことは分かっていたのだが、予算が若干オーバーだったのだ。ベースモデルには手が届く。しかし必須オプションである電動パノラマサンルーフが選べるグレードになるとやや予算を超えて来るのだ。

しかしパサートと出会い、実際にハンドルを握るうちに、僕の心境は少しずつ変化していった。そしてVWの営業さんからも、僕が望む条件に沿うべく想像を超える価格提案をしてくれようという姿勢がひしひしと伝わってきた。

そう、VWジャパンは3月決算だったのだ。彼女を自分のものにするためには、今すぐにでも決断しなければならない。

しかし気になる点が無いわけではなかった。

まず、モデルチェンジを直近に控えるため、在庫が圧倒的に少ない。特に電動パノラマサンルーフ装着車の在庫がディーゼルモデルであるTDIにしか無かったのが悩ましかった。僕は以前よりガソリン車が好みだと思いこんでいたところもあり、短時間の試乗だけでTDIのフィーリングとの相性を見極めることが出来るのかが不安だったのだ。

 

こうして自らの意思で動かし始めたはずだった歯車の回転は、気づけば僕がコントロール出来ないほどにスピードを増していった。

 

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迫る決断の時

つまり僕に残された時間は殆どなかった。

2月後半の10日間の海外渡航から帰国し、初めてパサートに出会ったのが3月初旬で、さらに3月の第二週の週末には家族でのスキー旅行が控えており、そしてなんと3月半ばから再び海外へ飛ばなければならなかったのだ。

僕は運命を呪うと共に、この数日間が決断の時なのだと悟った。

 

限られた時間の中で、改めてプジョー5008、マツダCX-8、そしてVWパサートヴァリアントの試乗の予約を入れた。最後の決断のための、最後の試乗ということになる。

そんな時にも妻は僕をサポートしてくれた。車に興味が無いはずの彼女が

「もしかしたら本当に買うかも知れない車だから、みんなで一緒に行こうか」

と言ってくれたのである。迷っている僕の心を後押しする上で、妻や子供たちの意見はとても貴重だ。

(そして非常に不謹慎だが、新型肺炎の影響で学校が休校になっていたため普段は登校日である土曜日がフルに使えたのも有難かった)

 

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白の誘惑と別れの予感

最初に訪れたのはプジョーだった。営業さんも僕の状況を分かってくれていて、5008Allureを2時間ほどレンタカーのような形で貸し出してくれ、高速試乗を薦めてくれた。

やはりこの車は魅力的だ。堅実な直進安定性とコシのある乗り心地によって、その特長的な小径ステアルングホイールもすぐに我がもののように手に馴染んでくる。

前衛的でドライバーセントリックなi-Cockpitは目的を伴わずとも僕をドライバーズシートに誘うのにこれ以上ない魅力を放っている。パノラミックグラスルーフから差し込む初春の光は家族・友人とのヴァケーションへの期待を膨らませてくれる。

僕には確信があった。同じプジョーの308SWと丸8年も付き合ってきたのだ。見誤ることはない。5008となら今までと変わらない楽しい日々を送ることが出来る。

 

「僕が今T7型308SWという素晴らしい車に乗っていなければ」すぐさま恋に落ちていただろう。

 

そう、確信はあるのに、何かが足りない。確信があり過ぎるが故に、僕の心の中の、今までに無い何かを求める部分が、首をもたげて来る。

5008は、パワートレインやパッケージング含め、3列シート7人乗りステーションワゴンであるT7型308SWの受け皿を担う車種であると言っても過言ではない。そうなると、大きな投資を経て得られるものが今までと変わらないのであれば、308SWを整備して乗り続けるのと大差ないのではないか。

これまでの試乗で感じたドライブフィール面での細かい引っ掛かりは妥協できたとしても、この「変わらない感」から来る迷いだけは消える事はないのではないか。

 

そんな影が心に差し始めた刹那、光を見出すような出来事があった。再び妻のファインプレーが光った。試乗車はこちらのパールホワイトの5008Allureだった。

プジョー 5008 試乗Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/2000 sec, ISO25)

これを見て妻はこう言ったのだ。

「白が一番かっこいいんじゃない?上と下の黒いところとのツートンがハッキリしてて、シュッとして見えるよ」

これは盲点だった。僕は近視眼的に色そのものを見て、アマゾナイトグレーのような深みのある濃色系がいいと思いこんでいたのだが、それだとツートンカラーのメリハリが薄れて膨張的に見えてしまう。彼女は全体の印象を瞬時に捉え、ホワイトの魅力を見抜いたのだ。そう言われてみると俄然ホワイトが魅力的に見えてきた。ユニクロで服を買う時にはいつも迷っているのに、こういう時にスパッと鋭い意見を提示してくれる彼女の意外な直感力には時折驚かされる。

僕がファインプレーと言ったのは、つまりこういう事だ。現在プジョー・シトロエン東京ではアマゾナイトグレーの試乗車はないが、ホワイトなら、この試乗車そのものを試乗車落ちで手に入れるという選択肢を検討することが出来る。それであれば、今と大差ないという贅沢な悩みを抑えてでも5008の線が再び浮上してくるかも知れない。

僕はすぐに営業さんにその話を持ち掛けてみた。

しかし結果的には、残念ながら社内ルールでこの試乗車が販売対象になるのは少なくとも半年ほど先になるとの事だった。また当然のことながら営業さんも、認定中古車についてはそこまでニュートラルかつ積極的に提案をしてくれる訳ではなかった。如何に良い関係を続けてきた営業さんとは言え、こればかりは大人の事情、仕方がない。むしろ、だからこそ僕も出来れば新車購入で彼を立ててあげたい気持ちはあったのだ。

 

いずれにしても、心の引っ掛かりはその時点では払拭しきれず、かつプジョーシトロエンジャポンは3月決算でも無いため、このタイミングで急いでプジョーの車に決める理由を僕は失った。僕はプジョーの営業さんに率直にこう伝えた。

「やっぱり次も7〜8年は乗る事になると思うので、今急いで決めずにゆっくり検討しようかなと思います」

ちょうど20万円購入サポートのキャンペーンを行っていたが、おそらく年内にもう一度あるだろうという話だったのもその判断を後押しした。タイミングとはこういうものだ。

 

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黒い内装の盲点

マツダの営業さんもギリギリの中で頑張ってくれた。ピンポイントの車種・グレードに当日連絡してその日試乗したいという無理筋な依頼にも関わらず、他店舗から急遽試乗車を借り出してくれた。

CX-8で気になっていたのは、ボディサイズの割に仕様上の容量が小さい荷室と、今の愛車に比べると小さなサンルーフだった。

荷室についての懸念は案外すぐにクリアできた。主なキャンプ荷物であるRV BOXなどを持ち込んで実際に積載させてもらったのだ。最もかさばるこの2つの箱を積んだ上でこの程度の余裕があれば全く問題ない。

CX-8 荷室 キャンプApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO25)

しかもこちらも高速試乗させてもらったのだが、SKYACTIV-D2.2LのフィーリングやADASの出来もかなりいい・・・

さらに試乗車のこの「ディープクリスタルブルーマイカ」という色、従来はあまり眼中に無かったのだが実車を見ると実に表情豊かで格好いい・・・

CX-8 ディープクリスタルブルーマイカApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/120 sec, ISO32)

ということで、ここへ来てCX-8の株が急上昇してきたのだが、今度は長男が思いがけない重要なコメントをくれた。

「サンルーフは出来れば大きいほうがいいなあ。あと、内側の壁とかが黒いと、暗くて気持ち悪くなりそう・・・」

そう、CX-8は内張りが黒い。白のレザーシートを選んでも、視界に入る内張りは黒い。それが彼にとっては閉塞的に感じられると言うのだ。

CX-8 サンルーフApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/105 sec, ISO100)

サンルーフの小ささは予め懸念していたのだけど、思いもしなかった点に気づいて貴重な意見を提供してくれた長男、決める前に連れて来て本当によかった。

そう、僕が買う車は、家族との思い出を乗せる車なんだ。だから君たちと一緒に選ぶんだ。

308SWに決めたときもそうだったね。

 

もっとも、マツダの店を出て308SWに乗った瞬間に

「やっぱりうちのプジョーが一番いい!」

と言われた時は少しだけ困ったけどね。

 

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気づけば心のなかには君しかいなかった

僕は再びこの場所に来ていた。ドイツ出身の彼女に心奪われそうになった、あの場所だ。

ここに来るのは三度目になる。二度目は初めてパサートに出会ったその日の夕方、妻を伴って再び試乗に訪れた。その頃はまださほどの思い入れは無かったが、有力な新候補だったので一刻も早く妻にも見てもらいたかった。

そして三度目となる今回は、気になっていたTDIのフィーリングを確かめるべく高速試乗を行うのが目的だ。

語り始めるとやはり夜が明けてしまうので詳しくは別の記事に譲るが、この三度目の訪問で運命的な試乗車(走行距離が進むことでまろやかになったサウンドは僕のTDIに対する懸念を完全に一掃してくれた)に出会い、すっかり虜になってしまっていた

端正で実用的なエクステリア、機能性がよく考えられた内装とコクピット、そしてそんなクレバーな外見とは裏腹に内に秘めた情熱的なパワートレイン。さらにTDIであればオールトラックというAWDモデルも選択が可能で、パノラマルーフ装着車の在庫もあるという。

僕は、バチェラーの立場なんてかなぐり捨ててもいいから、君に振り向いてほしい、そう思った。

すなわち、後は価格だけだ。

フォルクスワーゲン パサートヴァリアント 試乗Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/640 sec, ISO25)

 

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自分よりも自分を知る人がそばに居るということ

本当に欲しい物がそこにある時、それが少しだけ背伸びをしなければ手に入らない時、あなたはどうするだろうか。僕は慎重にこれでもかと悩みに悩んだ末に、結局手に入れるタイプだ。人生は短い。明日死ぬかも知れない。ならば少しくらいの無理は承知で楽しい方を選ぶ。

そうは頭でわかっていても、僕は悩むことが必要な儀式であるかのように、まさにこの深い悩みのどん底にいた。

 

10万円や20万円程度のデジタルカメラを買うのとは話が違う。

2年や3年の短期間で買い替えるようなものでもない。

今は小学生である子供たちには近い将来、否応なしに巣立ちの時が訪れる。それまでの間、僕たち家族の一員となって思い出を運んでくれる大切なパートナー。僕と妻の人生の中で、子供たちとの思い出を紡いでくれる最後の相棒。

そんなとてつもなく大事な事を、僕は数日の間に決めようとしている。

 

僕は普段から、妻は心配性で僕の方が度胸が座っていると思っている。だが、妻は僕にあっさりこう言った。

「よく分からないけど、このフォルクスワーゲンが一番良いんでしょ?ちょっと高いけど、家族みんなで乗れる車は最後かも知れないんだし、少し節約すれば別にいいんじゃない?本当に欲しい車だったら、買うのは今だよ」

 

僕は少し不安になった。念のために答え合わせをしてみよう。

「本当に欲しい物がそこにある時、それが少しだけ背伸びをしなければ手に入らない時」、僕はどういう行動を取るタイプだったか?

 

そうだ、思い出した。彼女は出会った頃から、茜色の空の下、一緒に線路脇の道を歩いていた頃から、とても素直でシンプルな気持ちにさせてくれるんだ。

 

うん、間違いない。妻は僕に正解を思い出させてくれた。

楽しむ人生を選んで、僕は、僕と家族は、今ここにいる。

 

 

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三月の雪は切なくも温かく

東京地方は前日から雨の土曜日になる予報だった。しかも冷たい雨になるという。

この日、僕は妻と二人の子供たちと共にこの場所に四度目の訪問をした。

 

試乗車に向かう。

「雨がみぞれになって来ましたね」

こう言ったのは傘を持ってアテンドしてくれた受付の女性だっただろうか。

 

この日のTDIもまろやかな心地よいサウンドを聞かせてくれた。やはり何度か会ってみなければ相手の魅力は分からない。

家族もこの車には満足しているようだ。長男よ、安心してくれ。内張りも白く明るいぞ。ここに電動パノラマルーフが付けば何も言うことはない。最高の週末を演出してくれるはずだ。

フォルクスワーゲン パサートヴァリアント 試乗 荷室 ラゲッジApple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/60 sec, ISO100)

 

店舗に戻って値引きについての最終の詰めを行う。もう心は決まっているが、予算オーバーならばその中でも出来るだけお買い得に手に入れる事で自分を納得させたい。

 

この営業さんとは、家族とのスキー旅行の間も含めて何度もメールで連絡を交わした。彼のレスポンスはとても心地よい。素早い上に、僕の知りたいことに的確に答えてくれ、押し付けがましくない爽やかさがある。そして彼は車が好きだ。他社の車についてもとてもよく勉強している。

予算について、率直なところを伝えた。彼は、社内での値引きルールやドイツ本社との決算時のインセンティブの仕組みまで社内資料も交えながら教えてくれた。さらに意外なことに、認定中古車や試乗車落ちの可能性についてもニュートラルに相談に乗ってくれた。

彼は、僕が欲しているものにダイレクトに、そして腹を割って答えようとしてくれている。そしてきっといい関係を構築できる。そう感じていた。

 

試乗車落ちの認定中古車という選択肢もあった。しかし、彼は原価割れギリギリのラインで本社と闘ってくれた。

それは僕と妻を決心させるのに十分な提案であり、かつ決断してあげたい、と思える行動だった。

そして僕と妻は互いに目配せで意思を確認し合い、新しい家族との生活に踏み出すことを決めた。

 

窓の外を白く染めていた雪も少し勢いが弱まったようだ。

店舗を出ると、そこには我が家の愛しいプジョー308SWが待っていた。なんて声をかければ良いのか分からない。

そしてその隣には偶然にも別のT9型308の姿がある。このオーナーはちょうどVWの納車を終えたばかりだという。

プジョー 308SW

僕はこのオーナーと話をしてみたい衝動に駆られた。もちろん実際にはそんな事はしないのだが、あまりにも境遇の近しい彼または彼女と今の心境を共有してみたいと思ったのだ。

「三月なのに雪なんて珍しいですね」なんて挨拶をしながら。

おかしな話だ。

 

三月の雪は、やはり僕を少なからず困惑させる。

 

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思い出が交差する場所

好きな人がいるのに、また新しく好きな人が出来てしまった。

不謹慎に聞こえるだろうか?

 

僕は初めてのマイカーがRX-8だった。足掛け7年間、大切な相棒だった。

だから今でもマツダというブランドが大好きだ。

 

308SWは8年間もの間、家族との思い出を紡いでくれた。

だからこれからもずっとプジョーというブランドが大好きだ。

 

そしてパサートオールトラックが新しい家族に加わった。

きっと僕はフォルクスワーゲンというブランドのファンになることが出来る。

 

豊かなことじゃないか。

 

これは車の話だ。

過去の思い出を切り捨てる必要なんてない。

パサートオールトラックがこれから紡いでくれるであろう新しい思い出は、今まで308SWがそばに居たからこそ切り開くことが出来た世界の続きだ。

その続きにどのような景色が待っているのか、そのカギを握るのは、パサートのステアリングホイールを握る僕だ。

僕が正しい方向にハンドルを切れば、パサートは喜んで僕と家族に素敵な景色を見せてくれるに違いない。

 

ありがとう、プジョー。

頼むぜ、ワーゲン。

 

プジョー 308SW フォルクスワーゲン パサート パンフレットOLYMPUS E-M1MarkII, LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S. (27mm, f/3.6, 1/60 sec, ISO200)

 

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あとがき

まあ薄々気付いておられるかもしれませんが、この記事は一種の企画ものというか、ネタのようなものです。

最近Twitterでお世話になっているブロガーさん達との間で、車にまつわる記事を小説風に書いてみよう!という話で盛り上がりまして、筆者としてもちょうど愛車の買い替えというタイミングだったので、その顛末を小説風に仕立ててみようという遊び心と勢いだけで書き下ろしてみました。そんなわけで、たかだか車の買い替えの話に過ぎないのにやたらと大仰な調子になっている訳です。

ところがですね。書いてるうちに、始めは冗談のつもり、たかだか車の買い替えのつもり、だったのが、本気で結構な大決断・長大なドラマだったような気がして来てしまったのには困りました(笑)

ちなみに書いてあることは(一部細かい時系列は前後しているかも知れませんが)基本的に全て事実です。なので、ある意味文章に起こしてみる事で、この1か月の間、怒涛のように過ぎる中で気づく暇すら無かった自分の気持ちを振り返る事が出来たという事なのかも知れません。

ただ幸か不幸かここに辿り着かれた方に申し訳ないのは、上記のようなノリなので心情の描写がメインになっており、価格交渉の経緯などの具体的なお役立ち情報は少なめです^^;

さてここで、上で述べた通りTwitterで仲良くさせて頂いていると共に最近の筆者のブログ活動に大いに刺激を下さっているブロガーの皆さんをご紹介したいと思います。皆さんすごいPVを叩き出してたり、ものすごくセンスのいいデザインだったりする、すごい方々です!

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年間約100台程試乗したり、触れたりしているクルマ好きが、試乗レビューと新型車の先行情報を中心に発信しています。 細かい部分にもフォーカスしていますので参考になれば幸いです。

なお、下の関連記事に上げている「三月の雪」はもう20年近く前に卒業したての頃に酔っぱらって若気の至りで書いたものです。一応本記事はこの記事を元ネタとしているのでもしお時間あったらどうぞ。当時通っていたS町(小田急線と井の頭線が交差する、あの町です)も、だいぶ変わっちまいました。懐かしいなあ。

 

さて、パサートオールトラックは4月上旬に納車予定です。

納車したらまた改めてオーナーレビューなど書いてみたいと思います。

それまでに308SWとの軌跡なんかもまとめてみたいなと思ってます^^

 

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コメント

  1. fuji より:

    名作!長いww大変楽しく拝読しました!
    随所に現れる文学的な比喩と感情が絡み合って、そして家族愛も投入されていて、それが実用的な決定であるというストーリーも面白い。映画化希望(笑

    • 10max より:

      ありがとう&読破お疲れ様w
      車なんて動きゃいいじゃんと言う向きには全く無意味だけど刺さる人にはやたらと刺さる、そう言うのをこれからも目指していきます(笑)