フォルクスワーゲンのDSGというツインクラッチトランスミッションは話題に事欠きません。その中の1つでかつてよく言われたのが「低速時にギクシャクする」というもの。
しかし、それはもう昔の話となったようです。今年4月に筆者宅にやってきた2020年式B8型パサートオールトラックの湿式6速DSGに関して言えば、ギクシャクの「ギ」の字も見受けられません。
実は最近思い始めたのが、その長年言われ続けてきた「ギクシャクするDSG」という汚名を葬り去るためにフォルクスワーゲンは「Dモード」と「Sモード」の味付けを実に巧みに練り上げて来ているんじゃないか、そして「ともすればモッサリ感すら覚えるDモード」の制御にこそ、その苦労が見て取れるんじゃないか、という事です。
今日はそんなDSGの特性と付き合い方について触れてみたいと思います。
Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/35 sec, ISO400)
DSGの3つの変速モード
パサートオールトラックに限らず、フォルクスワーゲンのDSGの自動変速には3つのモードがあります。
- 通常の「Dモード」
- スポーツ走行向けの「Sモード」
- マニュアルで変速タイミングを決める「Mモード」
通常は「Dモード」を使う事になります。一方「Sモード」と「Mモード」はよりスポーティな走行を実現するためのモードですね。
このうちの「Sモード」は筆者が知る限り/気付いた限り、「Dモード」と比較すると以下の2つの特性を実現する様にプログラムされているようです(一部筆者の推測を含みます)。
- 「Dモード」よりも、より低いギアの守備範囲が広い(シフトアップ/ダウンのタイミングが違う)
- 変速時のクラッチミートタイミングが早い(半クラッチ状態が短い)
1番目はよくある話ですね。トルコンATでもよく「スポーツモード」的なものがありますが、基本的には同じ考え方で、加速時には低めのギアをキープすることで加速性能を上げ、減速時には早いタイミングでシフトダウンする事で再加速時の速度コントロールを容易にするためのシフトプログラムです。
こうしたプログラムはワインディングなどでの意のまま感を出すために一役買ってくれますが、シフトチェンジのダイレクト感により強く関係してくるのは次の2番目の特性です。
「Sモード」は早めにクラッチミートしている(故にデリケート)
「Sモード」にすると1速の発進時などで明確にカチッとクラッチミートする感覚があります。MT車で発進時のクラッチミートが上手くいった時にような「クッ」と前に出るダイレクトで一体感のある発進加速を味わうことが出来ます。
これについては、当初はドライビングプロファイル機能の「スポーツモード」を選んだ際のエンジン出力特性が関係しているのかと思いましたが、そうでは無さそうです。というのも、ドライビングプロファイルを「ノーマル」モードにしたまま、シフトプログラムだけを「Sモード」にするだけでもこのダイレクトな特性が現れるのです。つまり、DSGの「Sモード」そのものの特性であると想像できます。
※ややこしいので少し補足。ドライビングプロファイルの「スポーツモード」は「DSGのSモード」に加え、エンジン出力特性、ステアリング特性、ダンパー特性などを総合的にスポーティに振る機能の事です。
ダイレクト故に時折見せるギクシャク感
さて、DSGの「Sモード」においてクラッチをより長い時間完全に接続している事がもっと如実に分かるのは、「Sモード」で10km/h以下の極低速域で1速を保ったまま、アクセルオフした時の挙動です。
MT車に乗られていた方ならイメージ出来ると思いますが、MT車では1速というのは非常に不安定な状態で、アクセルオフすると「ガクン」と減速し、ややギクシャクします。(その為「一旦発進した後はなるべく早く2速に上げましょう」と教習所で教わりますね(笑))
話を戻すと、「Sモード」の極低速域(1速)ではまさにその挙動が見られるのです。懐かしいったらありゃしません(笑)こんなところに、DSGがMT由来であることを見て取れる訳ですね。
これは言い換えれば、まさに「低速時のギクシャク」という事になります。つまり、早いタイミングで接続し、より長い時間クラッチミートさせるによって発進時や加速時にダイレクトで気持ちの良い加速を実現する半面で、極低速時には昔から言われるようなギクシャクが顔を出すわけです。これはDSGが基本的には自動化MTだという事と考えれば当然の事です。
面白がるのはこれくらいにして、こうした徐行でギクシャクするようなケースでは後述の通りシフトレバーをコクっとやって「Dモード」に戻しましょう。
「Mモード」(マニュアルモード)の特性は「Sモード」と共通
お次に手動変速の「Mモード」(マニュアルモード)ですが、こちらは変速タイミングをドライバーが決められるという点は異なりますが、クラッチの繋ぎ方の特性は「Sモード」と同様です。比較的低回転時にクラッチが完全締結されるため通常走行ではダイレクトで気持ちの良い加速を味わえますが、逆に1速で徐行するようなケースではギクシャクします。このような場合もさっと「Dモード」に戻しましょう。
発進時や2速へのシフトアップ時の、アクセルの踏み方や変速タイミングによってスムーズに行ったりギクシャクしたりするので、「Sモード」以上にMT車のような感覚を味わえてある意味面白いですよ。
さて、こうした「Sモード」や「Mモード」のギクシャク問題ですが、これを解決するのは造作も無い事です。「Dモード」に戻しましょう。
決してギクシャクさせない「Dモード」
ここでようやく「Dモード」の話です。順序が逆になったように思われるかもしれませんが、実は筆者はこの「Dモード」にこそフォルクスワーゲンの長年の努力が詰まっているのではないかと最近考えているのです。
発進時の「もたつき」はあえてやっている面も?
筆者はこのパサートオールトラックに乗り始めた当初、「発進時の出だしがモッサリしてるなあ」とずっと感じていました。実際に「DSG 発進 もたつき」に関する報告やインプレをしばしば目にします。
原因の一つには、1900rpmで400Nmの大トルクを発生するパサートオールトラックの高回転型のTDIエンジン特有のターボラグも多少影響しているでしょう。それにしても、です。
また、このモッサリ感は1速から2速にシフトアップされる前の現象なので、シフトアップタイミングとは関係がなさそうです。
逆の言い方をすれば、死ぬほどスムーズなんです。決して急な挙動を見せず、乗員がガクガクするような事は決してありません。また、上のSモードやMモードのところで触れた、MTのように10km/h以下の極低速域で1速を維持したアクセルオフでギクシャクするようなことも全く無く、スムーズそのもの、まさにトルコンATと遜色ない挙動です。
これ、間違いなく「半クラッチ」を非常に緻密に制御して実現しているのだと想像されます。ATフルードではなく多板クラッチでこれを実現しているとしたら、非常に高度な技術だと思うのです。
パサートの「パッセンジャーズ・カー」としての側面
そこで思い起こしたことがあります。そういえばパサートは、アルテオンが登場する前はフォルクスワーゲンのフラッグシップだった車。つまり、乗客を乗せて走る「パッセンジャーズ・カー」としての側面も持ち合わせる必要があるという事です。
となると、時に「決して乗員に不快感を与えてはならぬ」という使命をも帯びる事があるでしょう。この「Dモード」は、そういう思想に振った制御を追求したものなのかも知れません。つまり
「どんなに雑にアクセル操作してもギクシャクさせない」
という使命です。それを「モッサリ」「もたつき」だと感じたとすれば合点が行きます。だって、どんなに頑張ったって「Dモード」だと穏やかにしか発進しないんだもん(笑)
なので、家族や友人などの同乗者がいる場合にはまさに「Dモード」の真価発揮、という訳ですね。
この辺りの味付けについて、パサートファミリー以外の車種でも同じなのかどうかは何とも言えません。車重やエンジンのトルクの出方、ターボラグなどの特性にも拠るでしょう。ただ、試乗の範囲では「ギクシャクしてるな」と感じたことは無いので概ねDSGの共通の制御になりつつあるのかも知れませんね。
あと、この制御について一つ気になるとすると、Dモードってもしかすると「半クラッチ」をものすごく多用してるんですかね。だとすると、極低速域を多用する渋滞の多い都心部でDモードを多用する事はやや躊躇われますね・・・パサートオールトラックや多くのハイパワー車のように湿式DSGの場合はさほど気にしなくても良いのかも知れませんが。
Apple iPhone XS, (4.25mm, f/1.8, 1/35 sec, ISO400)
ダイレクト感とスムーズさの中心でDSGとの付き合い方を叫ぶ
あれ、なんかいくつかの映画が混ざった感ある?気のせい気のせい(笑)
さて、低速時の挙動からやっぱりMT由来である事が感じられるDSG、断然気持ちいいのは「Sモード」です。郊外や混みあっていない道では基本的に「Sモード」を使わない理由はあまりないでしょう。特にDモードで見られる発進時のモッサリ感が雲散霧消し、DSGらしいダイレクトな発進加速を堪能する事が出来ます。この気持ちよさは元MT乗りとしては嬉しいもの。トルコンATの効率化・ダイレクト化がいかに進んだとはいえ中々到達できない領域だと感じます。
一方で速度域が低い市街地や渋滞時は、特に同乗者が居る場合には、やはりスムーズさが売りの「Dモード」がパッセンジャーズ・カーとしての真骨頂を発揮して、「決して不快感を与えない」制御で乗員をもてなしてくれます。そして、これこそが長年フォルクスワーゲンが目指してきたDSGのスムーズネスの集大成かも知れません。
幸い現行のDSGはこうしたシフトモードの切り替えについて非常に「分かってるなあ」と思わせる上手いギミックを積んでいます。下の写真のシフトレバー根元の右側に「D/S▽」とあります。つまりシフトポジションがD位置の時にレバーを下にコクっと一回引けばDモードとSモードが瞬時に切り替わる機構が備わっています。ちなみに「D/S▽」の左に「+-」とあるように、左に倒せばマニュアルモードに切り替わります。このギミックを駆使して走行状況に応じて最適なモードを選択するのもまた、運転の楽しさというやつに繋がるでしょうね^^
最近の車ではこのようなシフトレバーを廃しボタンなどでお茶を濁す機構が見られますが、これは非常に操作性が良いですね。
なお、フォルクスワーゲン車のシフトレバーへの愛を叫んだ記事はこちらです(笑)↓
ということで、別に世界の中心とかで叫ばなくてもいいんですが、こうした特性を心に留めて、時に胸のすくようなダイレクト感を味わいつつ、時には同乗者や車にも優しい運転を心がけていきたいものです。
以上、素人の思い付きなので、もしより詳しい情報などありましたらTwitterやコメントなどでご教示ください。
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