パサオ君ことパサートオールトラックが我が家にやって来てちょうど1ヶ月が経った。
気づいた事やレビューにまとめたい事も少しずつ溜まってきているが、こいつの事を分かった気になるのはまだ早い。
何しろまだ一緒に生活を初めて1ヶ月しか経っていないのだから。
そこで今回のオーナーズレビューでは、「パサート」という「名前」にスポットライトを当ててみたい。この車が生まれた背景にある歴史と、そこに込められたであろう思いを紐解いてみることで、この車への理解と愛着を深めるきっかけにしたいと思う。
どうせSTAY HOMEだ。忙しい日々の中では腰を据えて考えないような事に思いを巡らせてみるのも悪くないだろう。
車が「名前」を持つと言うこと
過去にに所有した車の車名、RX-8、308SW。
つまり数字やアルファベット以外の「名前」を持つ車を所有したのはパサート オールトラックが初めてだ。
実は以前は「名前」を持つ車名よりも数字やアルファベットによる記号的な車名の方に良い印象を持っていた。理由は主に二つあった。
一つは、「名前」を与えてしまうと、その時代の背景や語感を引きずってしまい、年月を経ることで陳腐化、あるいは古臭くなってしまうような気がしていたこと。
もう一つは、消費財の如く入れ替わりのサイクルが短い印象があったことだ。これは特に日本車で多い様な気がするが、マーケット性が低いと判断されたが故に次々と生まれては消えていく短命な「車名」たち。愛車には先進性だけでなく現在に繋がる系譜と受け継がれる思想を持っていて欲しいと思うのは筆者だけだろうか。
一方数字やアルファベットによる車名は基本的にはセグメントやボディタイプで決まる事が多いためそうした懸念はなく、更にプジョーのように、現在で言うCセグメントの車種に対して、301(1932年)から現在の308に至るような名称の与え方をしている場合には歴史の連続性も感じられる。
余談だが、筆者の前愛車であるプジョー308SWの「SW」が何の略であるのかは公式見解は存在しないと以前聞いたことがある。「Sport Wagon」「Station Wagon」・・・など、オーナーの好きなように解釈して欲しいと言うような話だったと記憶する。もしかすると、あえて名前を付けない理由にはそうした考えもあるのかも知れない。
さて、メーカー毎に見るとどちらが主流とは一概には言えない。
数字やアルファベットで記号的な車名を持つブランドは、プジョー以外にメルセデス、BMW、アウディ、ポルシェ、ボルボ、シトロエン辺りがすぐに思いつく。国産メーカーでは最近マツダが国内向けロードスター以外の車種についてアルファベット+数字に統一を始めた。
一方「名前」を持つブランドも多い。VW以外には、ルノー、フォード、JEEP、シボレー、ランボルギーニ、マツダ以外の国産ブランド・・・面白いところではアルファロメオが近年過去の名車へのオマージュと合わせて「名前」を持つ方針に回帰している。
さて、この車種名に「名前」を与えるというブランディングについて、パサート オールトラックの事を知るにつれて自分の偏見がやや補正されて来つつある。
割と長い歴史を持つフォルクスワーゲンの車名たち
恥ずかしい話だがこれまでVWに関してはとんと明るくなく、今日VWのラインナップにある主な車名の多くは実は割と長い歴史を持っているという事実を最近ようやく知るに至った。
VWはかつて初代VW TYPE1(所謂ビートル)から始まり、1960年代までは「VW 1500」と言った記号的な車名を与えていた。しかし1973年、ビートルという過去の遺産からの脱却を目指したモデルに、(派生カスタムモデル以外で初めて)「PASSAT(パサート)」という「名前」を与えたのを皮切りに、1974年には「GOLF(ゴルフ)」とそのクーペモデルである「SCIROCCO(シロッコ)」を、1975年には「POLO(ポロ)」、1979年に「JETTA(ジェッタ)」を市場に投入している。
つまり、一時的に中断されたものも含めた現在の主力ラインナップの多くが戦後のフォルクスワーゲン中興の時代に生まれ、今日まで受け継がれている事が分かる。
※もっとも「カローラ」は1966年生まれなので名前を持った国産者にも先輩は居るわけだが・・・(それ以上に国産車には短命に終わった車名が余りにも多いというのも事実である)。
半世紀近く愛されてきたとすれば、当時どのような背景で生まれたモデルにどういう思いが込められた名前なのだろう。
名前を持つ車、意外と面白いかも知れない、と思った。
「パサート」=「貿易風」:風の名前を由来に持つ車たち
フォルクスワーゲンの車には風に由来する車名が多い。
「GOLF(ゴルフ)」は英語のスペルは「Gulf(湾)」となり、ヨーロッパに温暖な風をもたらすメキシコ湾流にちなんで命名された。「SCIROCCO(シロッコ)」はサハラ砂漠に吹く熱風の嵐である。
小型で実用的、かつリーズナブルな価格で、ビートルに変わり国民の生活を豊かにすることをミッションとするゴルフには相応しい名前に思える。またゴルフをロー・アンド・ロングにしたスポーティクーペには、砂漠の熱風という情熱的で激しいイメージと重なるものがある。
そして「Passat(パサート)」はドイツ語で「貿易風」と言う意味だ。貿易風とは、
亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯に向かって吹く対流圏下層の偏東風。北半球では北東貿易風,南半球では南東貿易風と呼ばれる定常的に吹く風である。(中略)ほぼ定常的に吹くため帆船時代の貿易に利用されるなどした・・・(出典:ブリタニカ国際大百科事典)
昔社会か何かで習ったような気がするなあ・・・そう、中世のヨーロッパ商人達はこの風を頼りに航海をしていた。この風に乗って行けば危険な航海の向こうにある目的地に辿り着くことが出来る、と。
やはりこの車は頼りがいのある旅の相棒という役割を期待されて生まれてきたモデルなのだ。
「パサート」に託されたもう一つの「航海」
もう一点この「パサート」と言う名前に意味を見出してみたいと思う。これは筆者の想像だ。
フォルクスワーゲン創設の立役者、鬼才フェルディナント・ポルシェ博士が1934年に制作したNSU PORSCHE TYPE 32、そして1938年に量産を始めたVOLKSWAGEN TYPE 1に端を発する通称「ビートル」は、「空冷・リアエンジン・リアドライブ」という基本構成をその後40年近く変えずに改良を重ねて同社を支えてきた世界随一のベストセラーモデルだが、一方1970年初頭には「偉大なるビートル」に代わる新しい車を市場に送り出すことが喫緊の課題であった。
そんな状況で1973年に同社の命運をかけてデビューしたのが、姉妹会社のアウディ80のコンポーネントを活用し、水冷4気筒エンジンをFFレイアウトに置きジウジアーロがデザインした「パサート」だった。
このパサートを契機にフォルクスワーゲンはビートルの生産を終え(後年リバイバルさせるが)新しい時代へと船出することになる。
つまり筆者は、フォルクスワーゲン車が過去の遺物から脱却し、新たな航海を導いてほしいという願いを「パサート」に託したのではないか、と勝手に想像を逞しくしている。それはお話としては面白いじゃないか。
最後に:名前の由来を紐解くことのススメ
ここまでパサオ君の名前の由来や歴史を紐解いてみる事で、以前より一層愛着が湧くことに気付く。お前はそういう使命と願いを託されてこの世に生まれてきたんだな、と。
またこうして改めて車名について考えてみて、所有していた時にも感じていたプジョーの案外合理的な考え方と、フォルクスワーゲンの意外にもロマンチストな一面を想像出来たりするのも面白い。
STAY HOMEにより出来た時間で、愛車でもそうでなくても、自分が愛用するものについて理解を深めてみるというのも一興ではないだろうか。
参考書籍
なお、フォルクスワーゲンの歴史などについてはこちらの書籍を主に参考にさせて頂きました。
また記事中の写真もこの書籍から引用させて頂いています。少し古いですが色々なメーカーのものが揃っているのでご興味があればぜひ手に取ってみて下さい。
コメント
こんばんは
車名からその車に込められた思いがわかるんですね、、、
Alltrackは、OutbackやCross Countryより後発かと思いきや、車高を上げてアウトドア仕様とする派生車の手法はVWがゴルフ カントリーで先陣を切っていたと最近知りました。
車名と同様にグレードや限定仕様車のネーミングも興味深いですね。
(昔の日本車にはデラックスっていうグレードが下の方に設定されていたような?)
恥ずかしながらガルフは知らなかったです^^;
CafeT2さん、こんばんは。
込められた思いを・・・無理やりこじつけて愛着を増そうという試みです(笑)
なるほど、クロスオーバーワゴンの先駆はゴルフ カントリーだったんですね。
僕もVWのことにはとんと疎く、知りませんでした^^;
デラックスって昔よく見ましたね!あれは下の方のグレードだったんでしょうか。
プジョーはxx8シリーズを今後どうしていくのか、9には行かないのか、気になるところです。