元RX-8乗りの10max(@10max)です。
どうも最近のマツダの思想が好きだ。
一人の車好きとして、そして一介のサラリーマンとして、実に痛快である。
先日マツダはラージ商品群の皮切り役としてCX-60を発表した。しかし本記事の趣旨はCX-60自体を褒め称える事ではない。ここで取り上げるのは、CX-60やラージアーキテクチャーに採用される技術や方式、あるいは、そこから垣間見えるマツダそのものの思想とも言うべきものだ。
このご時世にまさかの大排気量直列6気筒エンジンやトランスミッションを新規開発するという、およそ狂気の沙汰とも映るマツダの大胆な戦略とビジョンに(←褒めちぎってる)、筆者は大いなる拍手喝采を送りたい。
本記事ではマツダのラージアーキテクチャの「車好きを唸らせるエンスー的な側面と、そこに秘められた冷静な戦略」を明らかにしながら、エールを送りたいと思う。逆に言えばそれは昨今の自動車業界に対する願いでもあり、しばしお付き合い頂ければ幸いです。
EV一辺倒へと流される自動車業界
サスティナブルでカーボンフリーな車社会と言うお題に際して欠かす事の出来ない「EV」について、筆者は少し懐疑的な考えを持っている。無論、EVそのものを否定するつもりは毛頭無く、政治家達のパフォーマンスの道具にされているのでは無いか、という事だ。
この領域はエネルギーや車の生産から最終処分に至るまでのLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で見れば、本来は多様な選択肢を模索するプロセスが不可欠なように思うが、どうも「一見クリーンで大衆にも受けが良さそうな電気自動車」と言う安易なオプションを政争の具に使われている感が拭えない。もちろん「EVが従来の内燃機関よりも悪い」という事ではなく、「現時点ではEVによるCO2削減効果は期待ほど大きくはないためEV一辺倒な政策はいかがなものか」というだけの話である。
そして、車に興味のない一般大衆も、メディアに左右されつつ同じ方向に流されかねない。その未来を大いに懸念し、以前このような記事を書いた。
その様な中で自動車メーカーはどの様に舵取りを行うのか。政治家による人気取りの日和見政策に首根っこを抑えられ、大衆に対するブランドイメージを傷つけたくないメーカーも、今その多くが(おそらく多くの自己矛盾を抱えながらも)電動化へと大きく舵を切っていると言うのが現実と言わざるを得ない。
積極的にEVシフトを進めるフォルクスワーゲンでさえ、電動化によるカーボンニュートラルの実現に懸念を示したニュースは記憶に新しい。
エンスー的側面と戦略的側面が同居するマツダのラージアーキテクチャ構想
しかしマツダは、EVブームなどどこ吹く風、独自の道を歩んでいるように見える。
何故そう映るのか、まずは今回CX-60と合わせてマツダが発表した新世代アーキテクチャーの各論から見ていきたい。それぞれの技術・方式において「エンスー×エモエモ的な側面」と「冷静に効率を追い求めた戦略的な側面」とが同居している事に注目したい。
この期に及びトルコンレス8速ATを新規開発
まずはこのニュースに耳を疑った。国内外の各社が電動化へ舵を切り、内燃機関をベースとしたパワートレインの新規開発の打ち切りを発表する中で、まさかトランスミッションの新規開発を進めていたなどと、正気の沙汰とは思えない(←しつこいが、褒めちぎっている)。
変速フィールフェチである筆者の興味は俄然そのダイレクトなシフトフィールにある。プロトタイプの試乗レビューなどでは、比較的明確なシフトショックを伴う、DSGなどに近い感覚のインプレッションが多い。筆者の大好物である。
しかし、マツダの狙いの本丸は言うまでもなく効率化である。従前のSKYACTIV-DRIVEにおいても、トルコンATのロックアップ領域を極大化する事により効率を高めていたが、その必要性そのものを排除した形だ。
この分野ではフォルクスワーゲングループのDSGを始めとするツインクラッチ勢が先行しているが、マツダがその分野で追随するのは分が悪い。この新型トルコンレス8速ATは湿式多板クラッチを用いているが、恐らくハイブリッド車の普及等によりその分野の技術が小慣れてきたことも背景としてあるのではないだろうか。
しかし、マツダとて単にトランスミッションの効率向上だけを狙ってわざわざ膨大なコストをかけている訳ではない。このトルコンレス8速ATは「引き続き内燃機関を極める」という中長期に渡った壮大な戦略の一環に過ぎない。
絶滅危惧種の大排気量エンジン
トランスミッションよりもこちらのニュースに盛り上がる自動車ファンも多かったのではないだろうか。
- 排気量3.3L
- 直列6気筒
このパワーワードの威力たるや、自分が平成の時代にタイムスリップしたのではないかと錯覚するほどであると同時に、エンスー達の妄想をワシャワシャと掻き立てるのに十分過ぎるほどのインパクトを持つ。
何せ泣く子も黙るストレートシックスである。低回転域をマイルドハイブリッドで補う以外はマルチシリンダーならではの官能性を持ち合わせている事は疑う余地もない。
しかし、当然ながらこれは単にマツダ社員が物好きだからやっているという訳ではない(物好きなのは物好きだと思うが)。
今回発表されたパワートレインを見ると、3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンには48Vのマイルドハイブリッドが組み合わされている。大排気量エンジンは低負荷時には効率が下がり(宝の持ち腐れ状態)、高負荷になるほど相対的に効率が良くなる特性がある。これはちょうどダウンサイジングターボと逆の性質だ。
その特性を逆手に取り、低負荷時にMHVで補う事により、全体としてより小排気量ユニットを上回る高効率なエンジンに仕立ててきた、というのがこの3.3L直列6気筒ユニットの本質である。以前よりマツダは、ダウンサイジングターボへのアンチテーゼとして「ライトサイジング」というアプローチを発信していたが、それを極めた結果であるとも言える。
縦置きFRレイアウトに隠された妙味
「縦置きFRレイアウト」と言われて興奮する変態も車界隈には少なくないだろう。今やスポーツモデルにしか採用されない「FR」という機構を今後のプラットフォームの基盤に据えるなど、どうかしているとしか思えない(←だから、褒めてる)。
エンスーどもを興奮させる要素は駆動方式だけに留まらない。縦置きFRレイアウトはエクステリアデザインにも大きく影響する。マツダが度々カーデザイン界隈を湧かせてきた「RX-VISION」のようなフォルムにはロングノーズ・ショートキャビンや、短いフロントオーバーハングなどが欠かせない。しかし従来のマツダはFFプラットフォームでそれに近づけるために無理やりフロントオーバーハングを長めに取るといった涙ぐましい努力を行ってきた。
マツダがここ10年ほど掲げてきた「魂動デザイン」は、縦置きFRレイアウトによってようやく完成を見るのである。
しかしここでも、マツダ社内に変態が沢山いたからというだけの理由でFRレイアウトを採用した訳ではない(いるのはいるとは思うが)。
一言で言えば、マイルドハイブリッドやプラグインハイブリッド等を含めた複数のパワートレインを非常にコスト効率良く実現出来るという逆転の発想なのだ。
下の図をご覧頂くと、ポイントは2点ある。
- エンジン→モーター→トランスミッションの出力軸を同軸上に並べられる
- 6気筒エンジンには小型モーター(MHV)、4気筒エンジンには大型モーター(PHEV)が組み合わされる
1点目の特徴は、パワートレインを同軸上に置くことで技術的に非常にシンプルなものにすることが出来るというメリットが得られる。
そして目から鱗なのが2点目で、6気筒よりも2気筒分少ない4気筒では、その余ったスペースにモーターを置くことでPHEV化するというのだ。実にシンプルだが、実に面白い発想ではないか。
こうした発想の転換により、マツダの様な小規模なメーカーが独立して存続していくために不可欠な高いコスト効率をも実現していこうと言う戦略が見て取れる。
モーターの存在を必死に隠す変態PHEV
最後に、密かに筆者が最も感銘を受けたのがこれである。
世のPHEVは概ねモーターのフィールを主役にしたものが多い。なにせPHEVとはプラグイン・ハイブリッド「EV」なのだから。
しかし、マツダは違った。プロトタイプのインプレッションを見ていると、CX-60のPHEVはエンジンと変速によるリズムを積極的に前面に出しているようだ。下記はとあるインプレッション記事の抜粋である。
マツダによれば、エンジンと変速機を使った走りが、運転にリズムを与えるという。(中略)海外を含め他社のPHEVは、モーター走行に近づけた乗り味とする傾向にあり、エンジンの存在を消す努力が払われている。(中略)しかしCX-60は逆の発想で、エンジン車の走行感覚を継承する意図が感じられた。これをマツダは、「ドライビング・エンターテイメントSUV」と表現する。
出典:レスポンス
非常に素晴らしい。
プロトタイプの試乗動画を見ていると、どうも減速時に自動でブリッピングまで行うようである。ATモードのブレーキング時に自動でブリッピングするPHEVなど、常軌を逸しているとしか言いようがない(←何度も言うが、褒めまくっている)。
PHEVではないが、この話で思い出すことがある。それは同じマイルドハイブリッドであるゴルフ8とマツダ3(e-SKYACTIV X)の違いである。
フォルクスワーゲンのゴルフ8の試乗においては、MHV化の影響と思われる不自然な介入感によりDSGのダイレクト感が損なわれたというインプレッションを申し上げた。
一方のマツダ3においてはモーターの介入を殆ど感じさせることなく、唯一シフトアップの際の回生による回転数落としでその存在感を感じた程度であり、非常にリズミカルで小気味よいフィールであった。
もちろんゴルフにはGTIやRと言った飛び道具があるので、内燃機関を満喫したい人はそちらへどうぞ、という事であろうが、あえてホットモデル以外にも「ドライビング・エンターテイメント」を追求するというマツダの思想も相当に乙なものである。
流されず本質を追い求める痛快なマツダの戦略
まとめるなら、マツダのラージアーキテクチャ戦略は、一見内燃機関への回帰に振り切ったかのようにも見えるが、一方で将来的な電動化や開発コスト効率の向上と言った冷静な狙いをも秘めているという事になろう。
しかし忘れてはならない本質は、「マツダは内燃機関を極めることで、カーボンニュートラルに向けた現時点で最良のアプローチを目指している」という点ではないだろうか。
EVは確かに単体で見ればクリーンであるが、現時点では電力や車の生産から最終処分までのLCAの観点では課題も多い(繰り返しになるがEV一辺倒に疑問を感じるだけであり、否定するつもりは毛頭ない)。
そしてマツダはそのLCAに真摯に向き合い、EVシフトは「今じゃないでしょ」と考えているのだ。猫も杓子も「電動化」を掲げる中で、マツダは本質に拘っているがゆえに、容易にはその流れには与しないのだろう。
さらに細かい事を言えば、古臭い日本の法制度では大排気量化は高い自動車税と言う逆風も被るが、そうしたナンセンスな税制へのアンチテーゼにすら思えるのである。
冒頭で「一介のサラリーマンとして」も痛快であると述べたのは、そういうところだ。「真の課題は何なのか。それに向けてどういった解決方法が最適なのか」、大企業でピュアにそれを追い求める事は容易ではない。
RX-8の後、プジョー、フォルクスワーゲンと欧州車を乗り継ぎ、数年後の次期愛車ではどこの国へ渡ろうか、などと妄想を逞しくしている今日この頃だが、そう言った訳で今、マツダに非常に共感している。
ただ2点だけ筆者がマツダに苦言を呈するとするならば、まず今のマツダにその様な深淵な魅力を伝えるPR力があるか、と言う事だが、筆者は「知る人ぞ知る名車」に乗りたいタイプなので、それはそれで良いのかも知れない。
もう1点は・・・直6SKYACTIV-X・・・これをぜひ日本に・・・
コメント
こんにちは。
マツダさんの考え方は独特で、ある種頑固ですが、ブレずに通が唸るようなクルマ作りをしてくれるこで、ラージ群も注目度大ですね!
変速フィーリングしかり、音しかり、本当に素晴らしい。
内燃機関もそうですが、マツダさんはパワトレやシャシーの制御、味付けが高度で緻密なので、ロータリーのレンジエクステンダーや、BEVも楽しみですね!
日産&マツダファンさん、こんにちは。
ブレずにらしさを貫いてくれると、ファンとしてはさらに愛着が高まって応援したくなりますよね。
ラージ群のSUV以外の車種(というか次期MAZDA6)も楽しみです!
確かにこのキャラクターを貫いてくれれば、BEVなども他社とは違う味付けで楽しませてくれそうです♪
パサートAlltruck 2021 購入時には 10maxさんの素晴らしいこのブログを大いに参考にさせていただき、以後も写真が好きなこともあり 様々な フォトブログとしても楽しませせもらっています。
パサート号 素晴らしい車体基本性能と 積載量 居住性で 車としては 大いに気に入っています、
いや いるのですが、、、
自分の車体の問題なのか 色々と マイナートラブルもあり 入庫回数が結構多く 少しテンションが下がっているところに
今回のこの マツダCX-60 の評価考察、、
そうなんです
このラージ群CX-60への入れ替えを考えはじめていた自分にとって、とても心ざわつくものでした。(笑)
パサートも まだ 1年 12000km、 乗り換えとなると 18000kmというところになると思いますが、
30年来の車乗りとして
特に 駆動方式 エンジン型式に 興味があり(モーターサイクル乗りということもあり)
・86 レビン(最初の車で 12年乗りましたが)
・BMW 118d (FR最後のやつ)
以来の 後輪駆動ですが、
FRレイアウトx直6 x AWD x マルチリンクxダブルウィッシュボーン となるとということで
とても ざわついています。
最小回転半径 5.4m
前輪位置
サスペンションの搭載位置
と KPCコントロールも含めて ある意味 変態集団 マツダの真骨頂というところでしょうか。
パサートまでに
アテンザワゴン XD
CX-5 XD
ともにAWD
現在 家内が CX-30 XD AWDと
ある意味 マツダ党みたいな状態ですが、
ここは マツダのエンジンカーの集大成として、、、
よからぬ 心理状態です。
今も パサートは 入庫していますが、
おそらく 帰ってくると 黙っていい仕事をしつつ じわじわと感じる良さを発揮してくれると思いますが
そんな状況での 10maxさんの 記事でした。
じっくり車と対話して お付き合いされている 10maxさんにとっては
乗り換えは おそらく脳裏にすらよぎらないとは思いますが、
同じ方向で 興味を持っておられると感じてちょっと うれしかったです。
お久しぶりです。
ハンドルネームが変わっていたので一瞬アレっ?とと思いましたが、以前cox707さんとしてコメントくださっていた方ですね^^
マイナートラブル・・・そうでしたか。やはりあるものなのですね。
我が家のパサートオールトラックは幸い今までノートラブルですが、まだ2年なので、これからなのかも知れません。
フォルクスワーゲンもMHVやEVの方向に舵を切り、ゴルフ8からは制御の介入が多くDSGのキレが損なわれてきつつあるなかで、マツダの方向性は「これだよこれ!」というものでした。
実際に先日試乗したSKY-XのMAZDA3は変速といいエンジンの回り方といい、実に気持ちのいいフィールでした。
まさにこのご時世に有って、「変態集団」とはその通りですね(笑)
僕も以前二輪車に乗っていましたが、やはりバイクに乗っているとその辺りは特に気になるのかも知れませんね^^;
しばらくマツダのラージ商品群には注目ですね。
個人的には次期MAZDA6も非常に気になっています!
などとよからぬ気持ちでいろいろ物色しているうちが一番幸せなのかも知れませんね(笑)
確かに素晴らしい車だと思います。高級感も備えています。ただ日本のメジャーメーカーとしてこれからの将来的な自動車のあり方を見据えていないと言うか敢えて言わせていただくとミスリードしているようにも感じます。私自身マツダを乗り継いでいますが実際この頃少し時代に合わない感覚に囚われます。特にパーキングやサービスエリアでシャーっと無音で走り抜けていくHVやPHEVを見ると特にです。私は上級グレードしか関心がないので上位のグレードを600万出して購入したとして3年後。さらには高額だから5年後手放す時。他社ディーラーや買取店は正当な査定額を出してくれますかね?レクサスのRXやRZ。日産の次期エクストレイルや最新のアリア。災害時の発電機にもなる三菱エクリプスなどと同級生と世に出ましたが後5年後位はもう自動運転もレベル5が出てくるでしょう。シャカリキになって運転しパフォーマンスやドライブフィールがどうこうとか時代遅れになっていると感じてしまいます。運転なんて所詮しなければならないからしていたもの。しないで済むならその時間は動画やSNS。ゲームをしていたいとこの頃は感じます。下手に自動運転化が入り込んでいるから前をひたすら見てハンドルを握っているのが面倒になって来ました。マツダはとにかく他社や買い取りでの査定が低い。良くなったとは言えマツダ系のディーラーとガリバー位しか他社の同レベルに比べるとかなり渋い額になります。今はマツダの一回り小さい同型車に乗っていますが、本当はハリアーかCHRが欲しかったのですか期待通りの査定がつかなかったのでマツダを乗り継いています。今は大型の高級路線にご執心のようですがヤリスクロス、ヴェゼル、レイズなど世の中はコンパクトSUVが真っ盛りです。小さい車は利ざやが少ないと簡単に切り捨てないで何か工夫をしないとついて行けないですよ。ハリアーはさほど高額でなくても快適で安心。そこに世間の信頼性がある。ハリアーなら資産価値は残ると感じます。これからは簡単に高額な車を買い換える時代ではなくなります。あまり自社のポリシーで突っ走らない方がいいと感じますね。それと自社オーナーの代替えでなく他社ートヨタ、ホンダーから引っ張ってくるようでないと厳しいですよ。マツダ2台続けて乗りましたが次は高くてもハリアーかアリアがほしいです。5年後古くなってない車がいいですよね。
ひろしさん、コメントありがとうございます!
確かにマツダの商売の仕方は、今の時代危うさを孕んでいるのは確かでしょうね。
100年に一度と言われる自動車産業の変革期と言われる今、ただでさえ5年後には陳腐化しやすい商品なのに、かなり思い切った方向に舵を切ってきたな、と思わせます。
そうした方向性を好ましく思うユーザー層は一定数いる事は間違いないものの、事業として長続きするかどうかは別問題ですからね。
マツダディーラーには値引きを禁じてたりプレミアム路線を狙ったりと過去の負のスパイラルから逃れようと言う姿勢は見られるものの、おっしゃる通り商品戦略との間にギャップがある節もあります。
今後どうなるか、気になるところですね。